マーケティングにおける成功の鍵を握るSTP分析~目的や分析の流れ、注意点、事例を解説~
STP分析とは、「セグメンテーション」、「ターゲティング」、「ポジショニング」の3つから構成され、それぞれの頭文字を取った名称でマーケティング戦略策定において欠かせないマーケティング手法の1つです。
この記事では、STP分析の概要や具体的な手順、事例などを紹介します。新商品開発を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
STP分析とは?
STP分析とは、改めて、「セグメンテーション」、「ターゲティング」、「ポジショニング」の3つの要素から成るマーケティング手法です。アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した、代表的なマーケティング手法の1つです。
新商品の開発などを行う際、ターゲットとなる市場を決めます。しかし、一般的に市場は広範囲に及び、1つの商品だけですべてのニーズに応えることは不可能です。そこで、セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングと段階を踏んで市場を細分化することで、他社と差別化された市場を狙うことができるのです。
STP分析の目的
STP分析の最大の目的は、競合他社との差別化を図り、マーケティング戦略や顧客のニーズを把握し、市場でシェアを獲得していく点にあります。市場での立ち位置を明確にすれば独自のシェアを獲得でき、それがまた顧客から認知される要因にもなります。
また、STP分析は新商品開発の際にも重要な考え方です。STP分析は、市場のニーズを分析して新商品を開発していきます。顧客のニーズに基づいた考え方なので、新商品開発が失敗する可能性が低くなります。
STP分析の流れ
先述の通り、STP分析は以下の流れで進められます。
- セグメンテーション(S)
- ターゲティング(T)
- ポジショニング(P)
ここでは、新商品開発を想定して、STP分析の流れについて詳しく解説します。
①セグメンテーション(S)
まずは広大な市場を細分化して、新商品の対象となる市場を決めます。不特定多数の顧客について、年齢や性別、家族構成などの属性で分類して、セグメントを作成します。
市場を細分化するにはさまざまな条件が考えられますが、次の4つの要素が一般的です。
- デモグラフィックス(人口統計学特性)
- サイコグラフィックス(心理学的特性)
- 地理特性
- 行動特性
デモグラフィックス
デモグラフィックスとは「人口統計学特性」の総称です。次のような要素が、デモグラフィックスに該当します。
年齢、性別、職業、居住地域、所得、世帯人数、人種、既婚・未婚など
例えば、飲食店を出店する際にも「男性か女性か」「1人での来店か、家族での来店か」といったデモグラフィックスの属性で、セグメントを作ることができます。
サイコグラフィックス
サイコグラフィックスとは「心理学的特性」の総称です。次のような要素が、サイコグラフィックスに該当します。
性格、価値観、顧客のライフスタイル、興味関心などの心理的特性
サイコグラフィックスは、購買行動に直結する重要な要素です。美容院を例に挙げると、「最新のトレンドヘアに敏感」「多忙なので、見た目は整えつつ、効率性を重視」といった属性で、セグメンテーションをすることができます。
地理特性
地理特性も、セグメントを作るうえで重要な要素です。地理特性には、次のような変数があります。
- 国
- 都道府県
- 市町村
- 人口
- 人口密度
- 気候帯 など
スーパーマーケットを例にすると、地理的変数で分類すると「都市部(小規模で頻繁な買い物を望む傾向が高い)」「地域社会(地元産の食材を好む)」といった属性で、セグメントを作ることができます。
行動特性
行動特性とは、顧客の行動パターンや知識などで分類する変数です。行動変数には、ベネフィットや使用量、ロイヤリティなどの要素があります。
- ベネフィット:顧客が商品・サービスに求めているもの
- 使用量:顧客がどの程度の頻度や量で利用しているのか
- ロイヤリティ:ブランドに対する愛好心や忠誠心
行動変数で顧客を分類すると「新規顧客」「継続的に購入するリピーター」「自社製品を好んで購入する優良顧客」といった属性で、セグメントを作ることができます。
②ターゲティング(T)
セグメンテーションを行った後は、自社の目標達成に最も貢献するであろうセグメントを判断し、その中から重点的にアプローチするターゲットを絞り込みます。これが「ターゲティング」です。
セグメンテーションでは、顧客視点に基づき市場を細分化しましたが、ターゲティングでは販売側(自社)の要素も考慮する必要があります。具体的には、自社が達成したい「経営目的」と、その市場でシェアを獲得できるかの「経営資源」という2つの要素です。
経営目的と経営資源を考慮しつつ、どのセグメントに注目してターゲティングを行うのか、具体的な手順を次から解説します。
1.セグメントの魅力度を評価する
自社の経営目的を達成できるセグメントを選択するため、その魅力度を正確に評価することが不可欠です。
具体的には、市場の規模や成長率、利益率などの指標を分析することにより、将来性の高いセグメントを識別します。
- 市場の規模がどれほど大きいのか
- 市場のライフサイクルはどうか(今後成長を見込めるか)
- どの市場でどの程度の利益率を確保できるか など
2.セグメントのアクセスを調査する
どれだけ魅力的な市場であっても、自社が参入できる市場でなければ、新商品開発は困難になります。顧客との接触のしやすさや、競合他社との競争の激しさなどを考慮してアクセスの容易さを検証し、シェアを獲得できるセグメントを選択します。
- 自社で流通チャネル(小売業者やEC販売など)を活用できるか
- 参入する際に法規制はあるか など
3.企業の能力やリソースを確認する
自社に最適なセグメントを選択しても、そのセグメントで十分なシェアを獲得できるだけの経営資源が備わっているかどうか、十分に検討する必要があります。自社の経営目標を達成するために、自社の強みや資源が適切なレベルにあるかどうかを評価します。
- 自社に十分な実績があるか
- 自社の強みが、対象となるセグメントでも発揮できるか
- 十分な量の新商品を販売できるほどの資金があるか など
4.競争状況を調査する
セグメント内の競争状況を理解し、自社が優位性を発揮できるかを検証することも不可欠です。セグメントに十分な魅力があって、自社に十分なリソースがあっても、競争他社に対して優位性を発揮できなければ、十分なシェアを獲得できません。
- その市場が寡占状態ではないか
- 競合他社の強み・弱みは何か
- 競合他社が汲み取れていない顧客ニーズがあるか(市場規模も考慮する) など
③ポジショニング(P)
ターゲティングで標的市場を特定できれば、次は、顧客に対して自社の商品やサービスがどのように認識されるかを決める「ポジショニング」を実行します。ポジショニングでは、標的市場内において、自社製品がどうみられるかを決めていきます。
つまり、自社商品が顧客に認識され、十分なシェアを獲得するには、ポジショニングが欠かせません。ポジショニング戦略を決めるにあたり、UVPを踏まえUSPを特定したり、顧客とのコミュニケーション戦略を決めたりする必要があります。
具体的なポジショニングの実行手順については、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
関連記事>>ポジショニング戦略とは?ポジショニングの作り方やリサーチ手法、注意点を解説
STP分析を行う際の注意点
STP分析は、マーケティング戦略を策定するうえで欠かせない手法ですが、活用する際にはいくつか注意点があります。STP分析の効果を最大限発揮するためにも、十分に注意点を理解しておくことが重要です。
十分な市場の規模・適正があるかを事前に調査する
競合他社との差別化を意識するあまり、ニッチすぎるポジションを確立してしまい、十分な売上を立てられないケースがあります。競合他社との差別化を意識することも重要ですが、企業が利益を追求する以上、十分な顧客ニーズがあるかを考慮することは不可欠です。
反対に、市場規模が十分にあれば、商品領域が被ったとしても、価格やコミュニケーション戦略を工夫することで差別化につながるケースもあります。
また、自社がそのセグメントに適性があるかどうかを考慮する必要もあります。十分な市場規模があったとしても、自社のブランドにそぐわなかったり、顧客との十分なコミュニケーションを持ち合わせなかったりする場合は、そのセグメントを諦めることも1つの手です。
各指標を連動させる
STP分析は、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つの指標を個別に扱うのではなく、これらを連動させて考えます。
ただし、3つの指標に連動性があれば、分析の順番を柔軟に変更しても問題ありません。例えば、革新的な商品を投入する場合は、ポジショニングを決めてからセグメントを特定するケースもあります。
他の分析も併用する
新商品開発やマーケティング戦略策定においては、STP分析だけに依存する必要はありません。
STP分析以外にも、政治・経済・社会・技術の4つの要素から競合を分析する「PEST分析」や、内部環境と外部環境を強み・弱み・機会・脅威の4つの項目から分析する「SWOT分析」などがあります。
これらの分析とSTP分析を組み合わせることで、分析の精度を高めることができ、より高度なマーケティング戦略を策定できるようになります。
STP分析を活用した企業の事例
STP分析を活用して新商品の開発に成功した企業の事例を、3つ紹介します。
ワークマンの女性向けインナー(vsユニクロ)
ワークマンは、女性向けの高機能インナー市場に本格参入し、2023年秋冬の新製品発表会でこの方針を公表しました。目標として、5年後に国内シェア5%、売上の2割にあたる500億円を目指すと明らかにしました。
しかしこのセグメントは、ユニクロのヒートテックやエアリズムなどが既に高い知名度を確立しているため、新規参入は容易ではありません。
そこで、ワークマンは特に「保湿」を売りとするインナーを開発し、これを次の成長エンジンと位置づけました。保湿インナーには、化粧品大手ファンケルが開発した「セラミドヴェール」という素材を使用。この素材には保湿成分が配合されており、50回洗濯してもその効果が持続します。
ユニクロのヒートテックでは実現できない、乾燥肌やアトピー性皮膚炎への対策を、保湿インナーで実現するといいます。
特定のセグメント(女性向け高機能インナー市場)にターゲットを絞り込み、独自のポジション(保湿機能を持つ製品を提供)を確立することで、競争の激しい市場で新たな成長機会を見出そうとする、STP分析のよい事例の1つです。
参考記事:Business Insider Japan『ワークマン“肌着”に本格参入 。土屋専務「ユニクロが一番良い市場を取っている」の意味 』
チョコザップ
RIZAPグループが運営する初心者向けのコンビニジム「チョコザップ」は、計画的な大規模投資と高速大量出店戦略により、フィットネス業界で会員数首位を誇るまでに成長しました。
特に注目すべきは、チョコザップが従来のフィットネスジムの概念を覆し、運動初心者や未経験者をターゲットにした点です。低価格や生活圏内でのアクセスの容易さ、24時間営業、着替え不要などの利便性を提供することで、運動初心者・未経験者でも気軽に運動する機会を創出しました。
運動初心者や未経験者というセグメントに絞り、「低価格で気軽に利用できるジム」というポジションを確立することで成功した、STP分析のよい事例の1つです。
参考:ダイヤモンド・オンライン『「チョコザップ」黒字化で“限界突破”に挑むライザップ、瀬戸健社長が明かす拡大戦略の深層』
アサヒビールの生ジョッキ缶
アサヒビールの「生ジョッキ缶」の事例は、STP分析を利用した効果的な事例の1つです。
アサヒビールは、ビール市場での競争が激化する中、独自のポジショニングを確立するために「生ジョッキ缶」という革新的な商品を開発しました。この商品は、缶ビールながらも生ビールのような味わいと泡立ちを楽しめることが特徴です。
アサヒビールは、セグメントとして「家庭で気軽に高品質なビール体験を求める層」に焦点を当てました。ターゲティングによって「若年層やビールを普段あまり飲まない層」にアピールし、ポジショニング戦略として「従来の缶ビールとは一線を画す、独自性と新鮮な飲用体験」を前面に打ち出します。
結果、競争の激しいビール市場においても、アサヒビールの主力商品の1つとなりました。
参考記事:アサヒビール『研究開発編|スーパードライの新たなる挑戦がいま、始まる。生ジョッキ缶開発ストーリー』
まとめ:STP分析は新製品開発に役立つフレームワーク
STP分析とは、「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の3つから構成されるマーケティング手法です。競合他社との差別化を図り、市場でシェアを獲得していくために用いられるフレームワークで、市場に求められるものから分析していくため、新商品開発にも役立ちます。もし不明な点などございましたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。
(digmar編集部)