価格受容性調査とは?PSM分析・CVM分析・コンジョイント分析を解説

メーカーは新商品を市場に投下する際に、価格が市場に受け入れてもらえるのか、あるいは既に販売した商品でも価格が原因で売上が伸び悩んでいると判明した場合には、どの程度が妥当なのか、悩むことがあります。

新商品の価格決定や、既存商品の価格変更などに用いられる調査が「価格受容性調査」です。価格受容性調査にはさまざまな方法がありますが、今回はよく使われる「PSM分析」「CVM分析」「コンジョイント分析」の手法について取り上げます。

日頃、価格設定について考えることが多い方々や調査を実施しようと考えている方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

価格受容性調査とは

改めて、価格受容性調査とは、マーケットイン(顧客先行)の視点から、どの程度の価格なら顧客に受け入れてもらえるかを算出する調査です。新商品の価格決定や、既存商品の価格変更などに際に用いられます。

一般的に、「企業が提供する商品・サービスの便益と、顧客が支払う金銭とのバランスが等しい」ときに、価格は決定します。

企業は「よい商品なので、高く売りたい」と考えますが、消費者は「よい商品を、なるべく安く手に入れたい」と考えています。消費者が「よい商品だけど、高いから買わない(買えない)」となると、購入まで至りません。

この需要と供給のバランスを見極めつつ、売上を最大化するように価格を決定するのは、企業にとって永遠のテーマともいえます。その時にマーケティングリサーチで実施するのが「価格受容性調査」です。

価格受容性調査にはさまざまな手法がありますが、この記事では、よく用いられる以下の3つのリサーチ手法を紹介します。

  1. PSM分析
  2. CVM分析
  3. コンジョイント分析

各調査について、次から詳しく解説します。

価格受容性調査①PSM分析

PSM(Price Sensitivity Measurement)とは、商品やサービスの適正価格帯を調査する手法で、「価格感度測定」とも呼ばれます。アンケートで4つの質問をすることで、価格に対する感度を測定できる価格受容性調査で良く使われる調査手法の一つです。

PSM分析では、「最高価格」「妥協価格」「最低品質保証価格」「理想価格」の4つを明確にできます。PSM分析で割り出したこれら4つの価格を基に、企業は競争環境や利益率などを考慮しつつ、価格を決定します。

PSM分析のメリット

PSM分析のメリットは、新商品の適正価格を算出しやすい点にあります。

新商品は過去の売上データがないので、価格が受け入れられるかどうかは、市場に投入してみないとわからないことがあります。そこでPSM分析を活用することで、実際に消費者からのアンケート結果を基に適正価格を導き出せます。これにより、顧客視点での値ごろ感を把握することができます。

また、PSM分析は比較的容易に調査を実施できる点もメリットの1つです。消費者に対して後述する4つの質問のみを行うことで、調査結果を集計したものをグラフで表現し、適正価格を導き出すことが可能です。

PSM分析の実施方法

PSM分析では、消費者に以下の4つの質問をして、その回答結果を集計します。現在では、Webアンケートを通じて調査を行うことが一般的です。調査結果は価格(〇〇円)で得られます。

  1. 安すぎて、製品の品質に不安を感じ始める価格はいくらですか?(非受容最低価格)
  2. 安いが、製品の品質に不安を感じない価格はいくらですか?(受容最低価格)
  3. 高いが、製品の品質は高く購入する価値があると感じる価格はいくらですか?(受容最高価格)
  4. 高すぎて、製品の品質は高いが購入を考えない価格はいくらですか?(非受容最高価格)

調査結果は、以下のように表計算ソフトなどにまとめます。

psm分析1

調査結果を基に、各価格について4つの回答の累積割合を割り出し、グラフに図示します。縦軸が回答率、横軸は価格でグラフを作成し、散布図を作成すればグラフは完成です。

PSM分析の結果の見方

調査結果を折れ線グラフで表現し、各線が交差する交点によって、以下のように4つの価格を割り出すことができます。

PSM分析2
  • 最高価格…「これ以上高い値段は誰も購入しない」という価格。高級品や付加価値の高い商品などにおいて採用される価格。
  • 妥協価格…「この商品であれば、この値段が適正だろう」という価格。業界内のトップシェアの価格と近似する傾向がある
  • 理想価格…「高すぎず、安くない値段」という価格。価格に対して否定的な意見がもっとも少ないので、もっとも多くの消費者が購入する価格。ただし、製造コストの問題で、設定するのが難しいことも
  • 最低品質保証価格「これ以上安い値段は誰も購入しない」という価格。スーパーなどのセール品で採用される価格。

上記のように、業界や販売形態などに応じて、上記の4つの価格から値付けをします。
以下がサンプル図になります

psm分析

1,230円~1,550円の間で金額を設定することが適切ということになります。

PSM分析の問題点

PSM分析は特に新商品の価格設定に役立つ調査ですが、ある程度認識されている商品に適しています。予測困難な商品や革新的な商品など知識がない商品については、消費者が価格に対してイメージすることができず、精度が悪くなってしまいます。

例えば、「スマートフォンが普及していなかった時代のiPhone」や「電気自動車が主流ではなかった時代のテスラ」などでは、PSM分析は適していません。PSM分析は、消費者に馴染みのある商品やサービスの価格調査に適しています。

価格受容性調査②CVM分析

価格受容性調査の1つ、CVM分析とは「Contingent Valuation Method(仮想評価法)」のことで、あらかじめ提示された価格帯ごとに購入意向を段階的に聴取し、適正価格を算出する方法です。

それぞれの価格帯において、商品やサービスがどの程度の購入率を見込めるか調べるために用いられます。PSM分析は新商品の価格設定に向いていますが、CVM分析は既存商品の価格変更に適した分析手法です。

CVM分析のメリット

CVM分析は価格ごとに購入意向率を図れるので、既存商品の価格変更したときに、マーケットシェアにどの程度の影響を与えるかを明確にできます。

消費者は既存商品の価格に敏感で、またどの程度の価格まで受け入れられるかがわからないので、企業は価格変更(特に値上げ)で慎重にならざるを得ません。そこで、CVM分析を用いれば、価格ごとの購入意向率が明確になった状態のまま、根拠をもって価格を変更できます。

CVM分析の実施方法

CVM分析では、消費者にアンケートを実施し、複数の価格についての受容性を段階的に評価してもらいます。アンケート内容は、以下のようなものです。

【質問】商品Aについて、5,000円であれば購入したいですか?
【回答】はい/いいえ

※「はい」と答えた回答者には「それでは商品Aについて、6,000円であれば購入したいですか?」と質問
※「いいえ」と答えた回答者には「それでは商品Aについて、4,000円であれば購入したいですか?」と質問

このように段階的に質問をしていくことで、価格ごとの購入意向率を割り出すことができます。この結果を表計算ソフトなどにまとめ、縦軸に「購入意向率」、横軸に「価格」でグラフを作成します。

CVM分析の結果の見方

先の手順でグラフを作成すると、1,000円単位など、詳細な価格帯ごとの購入意向率を導き出すことが可能です。

価格ごとに細かく購入意向率を割り出すことができるため、消費者が敏感になりやすい既存商品の値上げも、購入意向率を基に決定できるようになります。そのため「十分な購入が見込める範囲で値上げをし、売上を最大化する」という価格設定も実現可能です。

CVM分析の結果の注意点

CVM分析では、事前に回答者に提示する価格帯を調査実施者が決定する必要があります。このため、調査実施者の意向が反映され、回答者の視点ではない適正価格が算出されるおそれがあります。

また、PSM分析で明らかにされた適正価格は、CVM分析では明確にはわかりません。CVM分析では価格ごとの購入意向率が明らかにされるため、実際の市場で価格を変更しながら、適正価格を設定する必要があります。

価格受容性調査③コンジョイント分析

コンジョイント分析とは、回答者が選んだ順位データを基に、各評価項目にどの程度の効用値が与えられているのかを数値化する分析手法です。

コンジョイント分析のメリット

コンジョイント分析には、回答者が回答に忖度しないというメリットがあります。

例えば、とある商品のスペックを見せられて「いくらなら買うと思いますか?」と聞かれると、回答者は実際に買うよりも高く(または低く)見積もる傾向にあります。

そのため、調査結果では10,000円と出たのに実際には12,000円でも買える、または8,000円でないと買ってくれない、といった乖離が起こる可能性があるのです。

一方、コンジョイント分析は実際の行動と調査結果に乖離が生じにくく、正確なデータを得られるメリットがあり、インターネットリサーチを利用したWEBコンジョイントにて実施することが主流となっています。

コンジョイント分析の実施方法

コンジョイント分析では、まず効果を測定したい「属性」と「水準」を選択します。自動車の場合、次のような属性と水準が考えられます。

コンジョイント分析1

ここから、属性と水準のあらゆる組み合わせ(プロファイル)を作成し、回答者にどれが良いか順番をつけてもらうのです。
3段階や5段階評価で行い、点数化していきます。

<プロファイル作成の例>

Case1

  • 色:黒
  • 価格:600万円
  • 排気量:2,500cc
  • 内装:革張り
  • メーカー:マツダ

ただし、属性の数×水準の数のプロファイルが考えられるので、通常、プロファイルの数は膨大になります(上記の例でも800通りあります)。すべてのプロファイルを順番付けするのは回答者にとって負担になるので、一部のプロファイルを抜き出して、回答者に順番付けしてもらうのが一般的です。

これは実験計画法に沿った直交表を作成して実施することになります。一部のプロファイルを選ぶ場合,組み合わせに偏りがあると正しい結果が得られません。それを防ぐために、直行表に基づいて実施することが重要となります。

コンジョイント分析2

今回のケースでは上記のような直交表を作ります。16ケースとなります。今回のように属性ごとの水準数が異なる場合、一般的には、属性の水準数が少ないものに合わせて直交表を作成します。(今回は属性4)

コンジョイント分析の結果の見方

コンジョイント分析を実行すると、「部分効用値」というデータを得られます。部分効用値は、その要素が商品選択に与える影響を示す数値です。例えば、先ほどの自動車の価格の部分効用値が次のようになったとします。

コンジョイント分析3

600万円を超えると部分効用値がマイナスになっており、急激に低くなっていることがわかります。つまり、600万円を超える価格帯では商品が購入されない可能性が高くなるため、価格は600万円未満に抑える方が適切であると考えられます。

各属性をまとめると以下になります。

コンジョイント分析4

例えば同じ排気量1,500ccだった場合、400万円のBメーカー(効用値1.3-0.2=1.1)よりも600万円でAメーカーの方(効用値-1.2+2.5=1.3)が好まれるという見方になります。

コンジョイント分析の注意点

コンジョイント分析では、広告や流通チャネルなどを一切考慮していません。これは純粋な価格受容性を測定しており、実際の市場投入時には調査結果との乖離が生じる可能性があります。

そのため、コンジョイント分析の結果は仮説として捉え、実際の市場投入に際しては改めて価格の検討が必要です。

まとめ:価格受容性調査

価格受容性調査とは、マーケットインの視点から、どの程度の価格なら顧客に受け入れてもらえるかを算出する調査です。新商品の価格決定や、既存商品の価格変更などに際に用いられます。

価格受容性調査にはご紹介したようにいくつもの調査手法がありますが、価格設定に失敗しないように未然に防ぐため、消費者がどのように感じているかという顧客理解を深めるためなど価格がマーケティング課題となっている場合にはぜひリサーチしてみていかがでしょうか。

何かお困りごとやご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

(digmar編集部)