ポジショニング戦略とは?ポジショニングの作り方やリサーチ手法、注意点を解説

ポジショニング戦略とは

多くの企業にとって、他社との差別化を図るポジショニング戦略は不可欠なものです。現代の市場にはさまざまなモノやサービスがあふれており、ポジショニングを誤れば自社製品は簡単に埋もれてしまいます。

この記事では、ポジショニング戦略とは何か、その目的や具体的な作り方、ポジショニング戦略の策定に欠かせないリサーチ手法などを紹介します。ポジショニング戦略によって他社との差別化を検討している企業は、ぜひ参考にしてみてください。

ポジショニング戦略とは

ポジショニング戦略とは、自社の商品やサービスにおいて、他社と差別化するため、また、特定の市場に集中させるために、ポジションを明確化する戦略です。また、ポジショニング戦略は、顧客に対して自社の商品やサービスがどのように認識されるかを決めることでもあります。

他社と比較されたうえで自社製品が顧客から選ばれるようになるには、ポジショニング戦略は不可欠です。ブランド戦略と相互に補完し合う関係があるので、ブランド戦略と統合的に考えることが重要です。

ポジショニング戦略を作る目的

多くの企業は、集客や売上アップを狙うためにポジショニング戦略を検討します。新商品開発やマーケティング戦略の策定などにおいて、企業がポジショニング戦略を考える主な目的を3つ解説します。

他社が進出していないポジションを確認する

自社の商品やサービスのポジショニングを明確にすることは、他社が進出していないポジションを発見する可能性を秘めています。新たなポジションにおいて顧客の需要がある場合、先行者利益を享受することができるかもしれません。

ポジショニング戦略によって他社が進出していないポジションを確立した企業の例として「LINE」が挙げられます。以前は、オンラインでのメッセージのやり取りにおいてはメールが主流でした。しかし、LINEはスマートフォンの普及前から無料のメッセージと音声通話サービスを提供し、使いやすさによって市場を一気に獲得して、現在のポジションを確立しました。

市場に存在する商品・サービスのポジションを綿密に分析し、まだ満たせていない顧客のニーズを明らかにすることは、新たなポジションの確立につながるかもしれません。

自社内の商品領域が被らないようにする

ポジショニング戦略を明確にせずに自社の商品やサービスを次々とリリースすると、自社内で商品の領域が重複してしまい、自社製品同士が市場シェアを奪い合うことが起こり得ます。

これを「自社競合」あるいは「カニバリゼーション」と呼びます。自社競合は、自社内での競争意識を生み出す利点もありますが、大抵の場合は既存の収益を減少させたり、新規市場への参入機会の損失を引き起こしたりする弊害もあるのです。

自社競合は、会社のポジショニング戦略やターゲティングが不明確な場合に発生する可能性があります。新商品を開発する際は、競合だけでなく自社内でも商品の領域が重複しないようなポジショニング戦略が必要です。

顧客に自社ブランドを正しく伝える

明確なポジショニング戦略は、顧客に自社ブランドの価値やイメージを正しく伝えることにつながります。単に標的市場でのポジションを確立するだけでなく、顧客に自社の魅力や価値を伝えてこそ、ポジショニング戦略は真価を発揮するのです。

例えば、飲食店のポジションを「大衆向けに低価格メニューを提供する店」とするか、「デート向けの特別な体験を付加価値とする店」とするかによって、店舗名や内装、接客方法など、全てが異なってきます。ここでポジショニング戦略を明確にしておけば、自ずと顧客とのコミュニケーション方法が決まるのです。

一方で、ポジショニング戦略が曖昧だと、自社ブランドの価値が顧客に正しく伝わらず、設定したポジショニングの意味が失われてしまいます。ポジショニング戦略は、ブランディングの観点からも欠かせない要素です。

ポジショニング戦略策定の進め方

ポジショニング戦略の進め方

ポジショニング戦略のポイントは「他社の商品やサービスと比較して、自社製品が顧客からどのように認識されるか」を考えることにあります。そのため、まず標的市場を明確にし、競合を分析して、自社の独自性を発揮する方法を考えることが重要です。

次の手順に従うことで、適切なポジショニング戦略を策定することができます。

  1. 市場を選定する
  2. 競合を分析する   
  3. USPを確立する   
  4. コミュニケーション戦略を考える

それぞれの手順について解説します。

①市場を選定する

まずは、自社の標的となる市場を選定します。自社がターゲットとする顧客層(セグメント)を選定し、市場を細分化(セグメンテーション)します。

セグメンテーションのやり方はさまざまですが、基本的には「地理」「行動」「サイコグラフィクス」「デモグラフィックス」の4つの要素から市場を細分化します。セグメンテーションによって成熟した市場を狙うのか、あるいはニッチな市場をターゲットとするのかは、企業の戦略によって異なります。

市場を細分化した後は、自社が狙う市場を選定(ターゲティング)します。セグメントの収益性や成長性などを分析し、自社の経営目的や経営資源などを考慮しながら市場を決めてください。

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②競合を分析する

ターゲティングによって市場を選定した後は、標的市場の競合を分析します。大手企業だけではなく、新規参入や代替品を提供する企業なども考慮して、5~10社程度を目安に競合会社を特定してください。

競合会社を特定したら、次のような項目を調査します。

  • 主力商品
  • 価格
  • 品質
  • 流通方法
  • アフターサービスの有無・内容 など

これらの情報を把握することで、競合との差別化点や競争力を見極めることができます。

なお、競合分析は机上だけで行っても正確なデータを得ることは難しく、自社の希望的観測によって実情との乖離が生じる可能性があります。そのため競合分析は通常、インターネット調査やアンケート調査、インタビューなどを活用して行われます。

競合会社に関する調査は、リサーチ会社に依頼することが一般的です。競合分析における調査を専門としているため、正確なデータを取得することができます。

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③USPを確立する

競合分析を行った後は、自社のUSP(Unique Selling Proposition)を特定します。USPとは、他社にはない自社独自の強みを指します。

ポジショニング戦略において、USPの特定は不可欠です。ポジショニング戦略の真価は「戦わずして勝つ」ことであり、他社にはない独自の強みが顧客の購買要因になれば、自ずと過度な市場競争から脱却できます。

USPを考える際は、まずセールスポイントを考えてみます。例えば、QBハウスの「10分の身だしなみ。料金は1,350円のみ」といった具体的なセールスポイントや、すき家の「ファミリーやグループのお客様にも、手軽な価格と、手際よいスピード、元気なサービスで提供する」といった自社の強みを言語化することで、ポジショニング戦略も明確になります。

④コミュニケーション戦略を考える

特定した自社のUSPを、どのような方法で顧客に伝えるか考えます。自社が優れた製品を持っていたとしても、適切な形で顧客に情報を伝えなければ意味がありません。

コミュニケーションの手段は、主に次の5つに分類されます。

  1. 広告…テレビ広告、Web広告など
  2. 販売促進…イベント出店、POP広告など
  3. 人的販売…キャッチセールス、営業訪問など
  4. パブリシティ…インターネットニュース、プレスリリースなど
  5. 口コミ…SNS、レビューなど

これらの手段を適切に組み合わせることで、自社のUSPを効果的に顧客に伝えることができます。

また、どのポジションを取るかによって、最適なコミュニケーション手段や内容は異なります。例えば、若者に人気のある商品を販売したい場合は、新聞広告やラジオCMではなく、Web広告やSNS広告などの方が適しています。

ただし、ポジショニング戦略とコミュニケーション戦略は別々に考えるのではなく、常に同じ軸で戦略を練ることが重要です。

ポジショニング戦略の作成例

架空の飲食店を例に、ポジショニング戦略の作成例を紹介します。

【飲食店の概要】
新鮮でおいしい有機野菜を使った料理を提供するレストラン

【標的市場】
都市部に住む30~45歳の男女。健康に対する意識が高く、有機野菜を使った料理を好む。

【ポジショニング】
健康志向を重視したレストラン。有機野菜をメインに、バランスのよい食事を提供する。メニューには、食材の生産者情報や栄養価なども記載し、健康志向の顧客を取り込む。

【競合との差別化】
地域との共存共栄を軸とする。地元農家から直接食材を仕入れることで、新鮮で質の高い料理を提供する。さらに地域イベントにも積極的に出店し、地元に深く根付いていることをアピールすることでチェーン店との差別化を図る。

ポジショニング戦略立案に効果的な分析手法

ポジショニング戦略の分析手法

ポジショニング戦略には、市場や競合を正しく理解し、仮説を立てて実行するためのリサーチが重要です。ポジショニング戦略を考える際、リサーチした結果を分析するのに「多変量解析」を用いると、より戦略の精度が上がります。多変量解析は、膨大なデータを要約して分析する方法です。

ポジショニング戦略で用いられる、代表的な多変量解析の手法を3つ紹介します。

①コレスポンデンス分析

市場にある商品・サービスとブランドイメージの相関性を調査する際に用いられる、多変量解析の手法の1つが「コレスポンデンス分析」です。コレスポンデンス分析では、アンケートなどの質問から得られた回答を基に、自社や競合の商品・サービスとブランドイメージの位置関係をマップ上に図示します。

この手法により、競合他社がどのようなポジションで商品・サービスを展開しているのかを把握したり、他社が進出していないポジションを発見したりすることにつながります。

②因子分析

因子分析は、大量のデータを要約・分析することに適した多変量解析の手法です。顧客が商品に対して持つイメージを調査し、回答を因子(グループ)ごとにまとめることが因子分析の目的です。

因子分析を用いることで、自社製品や競合製品がどの因子(例えば、飲食店であれば味や内装など)が購買の決め手となっているのかを特定することができます。これによって、顧客の購買要因からポジショニングを決めることが可能となります。

③クラスター分析

クラスター分析とは、異なる個々のデータを似ているデータ同士でグルーピングする多変量解析の手法です。ポジショニング戦略においては、自社や競合のポジショニングを把握するために商品・サービスやイメージワードの分類などに活用されます。

クラスター分析を調査データに適用することで、企業側はブランドを分類し、自社と競合の立ち位置を把握しながら差別化を図ることができます。

関連記事>>多変量解析とは?マーケティングにおける目的や主な分析手法を解説!

ポジショニング戦略を作る際の注意点

ポジショニング戦略を策定する際には、いくつかの注意点に留意する必要があります。特に注意すべき点を3つ解説します。

差別化を重視しすぎて顧客のニーズから外れないようにする

他社との差別化を追求するあまり、顧客のニーズから外れたポジショニングを選択しないよう注意してください。一般的な失敗例は、ニッチな市場を狙った結果、顧客のニーズがその市場に存在しない、または需要が不十分だったというケースです。

ポジショニング戦略を策定する際、セグメンテーションは顧客のニーズを軸に考えることが重要です。また、ニッチな市場にポジションを取る場合は、現状と売上予測を分析するための入念な市場調査が不可欠となります。差別化と顧客ニーズのバランスを考慮しながら、戦略を慎重に進める必要があります。

自社の理念と乖離しない

競合の少ないポジションを見つけたとしても、自社の企業理念と乖離している場合には注意が必要です。ポジショニング戦略はブランディングに欠かせないものであり、企業理念から逸脱したポジショニングを取ると、自社ブランドの損害を招く恐れがあります。

例えば、30代以上向けに高価格帯のレディース服を販売するアパレル店が、路線を変更して10代向けの低価格なレディース服を提供するようになった場合、既存の顧客が離れてしまう可能性があります。

ポジショニング戦略を策定する際には、自社の企業理念との整合性が取れているか、細心の注意が必要です。

うまくいかなければリポジショニングも検討する

ポジショニング戦略を策定して新商品を開発したり、既存商品を見直したりしても、想定した結果を得られない場合があります。もし現在のブランドのポジショニングが適切ではないと感じる場合は、ポジショニングを見直す「リポジショニング」の検討をおすすめします。

リポジショニングとは、顧客のライフスタイルや嗜好が変わって現在のポジションが適切でなくなった際に、ブランド・ポジショニングを見直し、再活性化させることをいいます。時間の経過とともに「自社製品の提供価値」と「顧客の需要」との間にはズレが発生し、次第に大きくなっていくことが一般的です。

このズレを認識し、適切なタイミングでリポジショニングを実行するためには、変化する市場や自社製品を定期的に評価することが大切です。四半期ごとに市場リサーチや製品アンケートを取るなど、定期的にリサーチできる環境を自社で整え、最適なタイミングでリポジショニングできるようにしてください。

ポジショニング戦略の成功例3選

ポジショニング戦略の事例

ポジショニング戦略で成功を収めた企業の事例を3つ紹介します。

Apple

AppleのiPhoneは、今や世界中で使用されているスマートフォンです。iPhoneのポジショニングは単純明快です。初代iPhone発表のプレゼンで、スティーブ・ジョブズは次のように述べました。

「一般的には、電話とメールとネット、そしてキーボード。しかしこれらはあまりスマートではない。そして使いにくい。縦が『賢さ軸』、横が『使いやすさ軸』とすると、普通のケータイはここ。賢くないし、使いにくい。」

「我々が望んでいるのは、どんなケータイより賢く、超カンタンに使える、これがiPhone。」

iPhoneは「賢さ」と「使いやすさ」の2軸において優れたデバイスであるというポジショニングを取り、そのポジションのわかりやすさから世界の市場で受け入れられました。Appleは、競合が存在しないポジションにうまく進出した成功例の1つです。

資生堂

資生堂は、リポジショニングに成功した企業の1つです。資生堂が提供する「シーブリーズ」は、今や女子高生を中心とする若い女性が、部活動後などに汗をかいたときの臭い対策として使用するデオドラント商品です(※現在は資生堂の関連会社である株式会社ファイントゥデイホールディングスの商品です)。

一方で、シーブリーズはかつて、マリンスポーツをした後の日焼け対策商品として男性向けに販売されていました。しかし、若者の海離れなどの影響で、シーブリーズの売上は低迷していました。

そこで、資生堂はシーブリーズのリポジショニングを行い、製品の本質は変えずにデザインやターゲットを一新しました。その結果、リポジショニングは成功し、シーブリーズの売上は低迷時の8倍にも伸びたのです。

サントリー

すでに成熟した市場においても、緻密な競合分析によるポジショニング戦略で、新たなポジショニングを獲得した製品があります。それが、サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」です。

2003年の発売当初、プレミアム感のあるビールといえば、サッポロビールの「ヱビスビール」が台頭していました。サントリーが徹底的に競合分析したところ、ヱビスビールにはお盆や年末年始といった特別な日に需要がある商品だとわかりました。

一方で、サントリーは「休日の夜に、ごほうびとしてプレミア感のあるビールを飲みたい」という需要が市場にあることを見抜きます。そこで、ザ・プレミアム・モルツは「週末のごほうび」というメッセージを打ち出し、休日に高級感のあるビールを飲みたい顧客に訴求することで、「プレミア感のあるビールといえばザ・プレミアム・モルツ」というポジションを確立しました。

このように一見成熟したと思える市場でも、緻密なポジショニング戦略を練ることで潜在的なニーズを汲み取ることも可能です。

まとめ:ポジショニング戦略はブランディングに欠かせない

ポジショニング戦略とは、他社との差別化を見出すために、自社の商品・サービスのポジションを明確にすることです。この戦略の策定は、競合が進出していないポジションの発見や、顧客との最適なコミュニケーション方法の確立につながります。

ポジショニング戦略を成功させるためには、自社や競合のポジションを正しく知る、正確な市場調査が必要です。本メディアを運営する株式会社マーケティング・リサーチ・サービスは、経験豊富なリサーチャーが在籍しており、ポジショニングの把握と分析における調査や回答分析のサポートを提供しています。市場を正確に理解し、正しいポジショニングを実現したい企業様は、ぜひお気軽に弊社へお問い合わせください。

(digmar編集部)