フォトエスノグラフィー(Photo Ethnography)とはどのような内容か?

フォトエスノグラフィー(Photo Ethnography)は、「写真(Photo)」と「エスノグラフィー(Ethnography)」を組み合わせた研究手法です。エスノグラフィーは、文化人類学や社会学などで用いられる質的調査手法で、人々の生活や文化を観察し分析する手法のことを言います。

*エスノグラフィーを詳しく知りたい方はこちら

フォトエスノグラフィーでは、このエスノグラフィーのアプローチに写真を取り入れ、視覚的な記録を活用する手法です。

本記事では、このフォトエスノグラフィーについて、詳しく解説していきます。

フォトエスノグラフィーの特徴

先述したとおり、フォトエスノグラフィーは写真とエスノグラフィーを組み合わせた手法ですが、定性調査の一つの手法であることに、代わりはありません。

それでは、このフォトエスノグラフィーにはどのような特徴があるのか、解説していきます。

視覚的な記録

研究対象となる人々やコミュニティの生活、環境、行動を写真に留めることで、視覚的な情報を記録できます。
例えば、都市のストリート文化、農村での伝統的な議会、職人の技術などを写真で記録すると、より具体的な理解を得ることができます。

フィールドワークの補完

フィールドワーク(現地調査)で研究者が単純観察者ではなく直接コミュニティに入り、生活を共にすることもあります。その状況を撮影し、分析時に再現性の補完的役割を果たすことができます。
また、観察調査において、時間や地理など何かしら制限があり十分に観察できない場合、写真で補うこともできます。

ストーリーの作成

単に写真の記録ではなく、写真と文章を組み合わせて物語を作ることがあります。
物語にすることで、対象の生活や文化を深く掘り下げることができます。

参加型アプローチ

調査実施者が写真を撮影するだけでなく、対象者自身が写真を撮影することで、被写体の視点から見た社会や文化の側面を、より正確に反映することができます。(フォトボイスと言われています)

フォトエスノグラフィーの手法

対象者(物)を撮影し分析する

調査実施者が写真を撮影し、フィールドワークの記録として活用する方法です。対象者の行動や環境を客観的に記録し、分析に役立てます。

写真を使いインタビューを行う

写真をインタビューのきっかけとして活用する手法です。対象者に写真を見せインタビューをすることで、その写真に関するインサイトなどを引き出します。言葉だけでは伝えにくい経験や価値観をより深く探ることができます。

自ら撮影する(フォトボイス)

対象者自身が写真を撮影し、その写真を通じて自らの視点や経験を共有する手法です。社会的に声を上げにくい立場の人々(移民、貧困など)の視点を伝えるために使われることが多いです。

フォトエスノグラフィーのメリットと注意点

フォトエスノグラフィーのメリットと問題点をそれぞれ解説します。
もし実施の検討をされる場合には、以下のことを踏まえて検討してください。

メリット

視覚的な記録による詳細な情報提供

   文章だけでは伝えにくい雰囲気や日常生活などを、写真に記録できます。例えば、民族の生活環境を
   写真に残すことで、生活状況の情報を提供することが可能となります。

言語の壁を越えたデータ収集

   異なる言語を話す場合でも、写真を利用することで理解の共有がしやすくなります。
   例えば、言語が通じない場合においても伝統的な儀式や習慣を視覚的に伝えることができます。

エスノグラフィーを代替的な手法として利用

   一般的なエスノグラフィーは参考観察などを行うため、時間と労力がかかります。
   調査対象を写真で撮ることで、負荷を軽減できます。  
   ただし、代替として利用できない場合があるため、注意が必要です。

注意点

調査実施者の視点が影響を与える可能性(バイアスや調査者の知識レベルの問題)

   調査実施者の価値観や視点が写真の解釈に影響を与える場合があり、
   偏った見方につながる恐れがあります。よって、調査実施者の知見が求められます。

撮影時の倫理的問題(プライバシーの配慮や同意が必要な場合がある)

   文化的な問題で、撮影の許可を取らずに撮ると倫理的に問題が生じる場合があります。
   事前に調べ、問題なく調査ができるか確認が必要です。

情報量の欠如

   写真だけでは、その背景にある文化的・社会的な意味が十分に伝わらないことがあります。
   例えば、撮られた写真がどのような意味があるのかまでは伝えることはできません。

実例のご紹介

実施例を見たい方は以下をご覧ください。

まとめ

フォトエスノグラフィーは、写真を活用して文化や社会を深く理解する研究手法です。視覚的なアプローチを取り入れることで、従来のエスノグラフィーを補完し、より効果的な調査内容と成り得ます。ただし、写真の解釈には注意が必要であり、倫理的な配慮も求められます。

この手法は、学術研究だけでなく、教育・福祉・都市デザインなど幅広い分野で活用されており、写真を通じて社会に新たな視点をもたらす重要なツールとなっています。

(digmar編集部)