エスノグラフィの手法・メリットや成功ポイントを解説

エスノグラフィとは、元々は社会学や文化人類学に由来した観察調査です。ユーザーの環境を観察し、ユーザー自身が意識していない潜在的な課題やニーズを探るのに適した手法です。最近ではモバイル端末を用いてオンラインで実施するケースも増えています。

この記事では、エスノグラフィについてメリット、成功のポイントを解説していきます。

エスノグラフィとは

まずはじめに、エスノグラフィとはどのような内容なのか、特徴や目的、手法について詳しく解説していきます。

エスノグラフィの特長

エスノグラフィとはフィールドワークによって観察対象者の日常に入り込み、共に生活を体験することで文化的な特徴や日常行動を観察・記録する手法のことを指します。もともとは社会学、民族学、文化人類学の分野で用いられることが多かったですが、市場調査(マーケティングリサーチ)などビジネスシーンにおいても採用されるようになりました。

ビジネスシーンでは、ターゲットと同じ目線で行動を詳しく観察することで、問題やニーズについてのインサイトを発見することを目的とします。そのプロセスで得られた情報を正確に分析することで、企業の商品・サービスの開発の前段階や改善に活用するのが効果的です。

エスノグラフィの手法に

エスノグラフィは、調査対象者(モニター)の自宅に訪問して調査する訪問観察調査など、調査員が実際の生活圏に入り込んで調査することが多くあります。また、このような行動観察だけでなく、投影法やビジュアルソーティングのような、無意識下に隠れている対象者の態度やニーズを顕在化するための方法を用いることもあります。投影法とは心理学的手法の1つで、マーケティングリサーチでは、消費者の内面を知るために活用されます。

そして、最近ではスマートフォンやタブレットなどモバイル端末を使用して行うことも増えています。そのモバイルエスノグラフィは、写真や動画、コメントで対象者の日常を記録させることに適しています。詳細についてはこの後の「具体的な手法」の中で解説しています)

エスノグラフィの具体的な手法

エスノグラフィはフィールドワークを伴いながら、実施します。その主な手法をご紹介致します。

ホームビジット(家庭訪問)

調査対象者の自宅へ訪問し、実際の生活の様子を入り込みながら観察します。時にはインタビューを行うことも効果的です。ユーザーが実際にどのような生活をしているのか、どのような場面で利用しているかなどをリアルに感じる取ることができます。

デプスインタビュー

インタビュアーと調査対象者が1対1で行うインタビュー手法です。一人にフォーカスしてインサイトを探る時に行う定性調査です。行動観察調査だけ行うケースもありますが、消費者の行動について直接ヒアリングすることで行動の背景を把握することができます。例えば、実際の調査テーマが「歯磨き」とすると、「なぜその時間に歯磨きをするのか」、「なぜその歯ブラシ・歯磨き粉を使用しているのか」、「製品を使う上で何か心配や悩みはないか」というような質問を投げかけ、より詳細な情報を得ることができます。

日記調査

日記調査は、日常における特定の場面を日々記録してもらう調査のことです。例えば、先述の「歯磨き」である場合、歯磨きのシーンを記録します。具体的には、「何時に、どのくらい、どのように、どの歯ブラシ・歯磨き粉を使って行っているのか」という詳細な情報まで記録してもらいます。また、それだけではなく、別途アンケートやインタビューなども行うことでより深い調査となります。

MROC(エムロック)

MROC(エムロック)とは、「Market Research Online Community」の略語で、オンラインコミュニティにて対象者同士の対話や書き込み、または製品の利用状況を観察し、情報を得る手法のことです。この手法は、対象者が持っている製品・サービスへの要望やブランドイメージといった率直な意見を聞き出すことを目的として使用されます。匿名コミュニティを形成するため、話しにくい話題でも盛り上がる傾向があり、対象者の本音を把握しやすい手法です。

エスノグラフィの特徴・メリット

エスノグラフィを使用することで、さまざまなメリットを享受できます。ここでは、特徴やメリットを詳しく解説します。エスノグラフィを効果的に活用するためにも、理解を深めておきましょう。

潜在的なニーズを得ることができる

エスノグラフィでは、対象者の行動をありのまま観察できます。アンケートやインタビュー形式の場合、回答者は「答えるのが恥ずかしい」、「曖昧で覚えていない」などを理由に正確な回答が得られないケースもあります。エスノグラフィはリアルな行動を観察したり、写真、動画、コメントなどで必要な情報をその都度記録してもらうため、プライベートなことも含めて、実際の”生の行動”を知ることが可能です。

よって調査対象者が考えていなかったり、意識していない”潜在的なニーズ”を観察手法によって得ることができます。

リアルタイムで情報が手に入る

モバイルエスノグラフィでは、対象者の行動をリアルタイムで捉えられます。対象者が写真や動画、コメントなどをモバイル端末で記録する度に、リサーチャーにも情報が共有される仕組みとなっているためです。また、対象者が行動している際に気になる点があれば、タイムリーに指示を出したり、質問したりすることも可能です。次回のインタビューやアンケートの機会を待つことなく、毎日情報をチェックでき、効率よくマーケティング活動を行えます。

時系列の行動を記録できる

日常的な行動を継続的に記録し、時系列で行動を分析できます。対象者の感情や思考、抱える悩みや課題は、時間の経過とともに変化する可能性があり、特定の時点の情報だけでは正確な分析ができないことが多いです。特定の時点での状況といった断片的な情報ではなく、対象者の行動を時系列で順を追って把握することが可能です。

地理的・場所的な制約がない

オンラインで実施する場合は、地理的・場所的な制約がなく、リアルで実施するよりも手軽に実施できます。会場調査(会場テスト/CLT)のように調査対象者を一箇所に集めたり、自宅に訪問(ホームビジット)したりする必要がなく、通信環境さえ構築していれば調査することができます。従来の調査では遠隔地や家庭の都合などで参加できなかった調査対象者も募集できるため、継続的に調査がしやすい手法です。

エスノグラフィの成功ポイント

エスノグラフィを行うにあたっては意識したいポイントがあります。ここでは、成功させるために必要なことを2つ紹介します。

複数の手法を組み合わせる

エスノグラフィを行う際には、複数の手法を組み合わせて実施しましょう。エスノグラフィは、対象者の潜在的な悩みや課題、ニーズを発掘することが大きな狙いです。それを実現するためには、アンケートやデプスインタビューなどの手法を補完的に活用するのが効果的です。

質の高いモニターを確保する

エスノグラフィでは、調査対象者(モニター)を集める必要がありますが、誰でも良いわけではありません。エスノグラフィは、モニターに対して継続的かつ正確な記録をお願いすることになります。参加するモニターによっては、途中で離脱したり、記録が曖昧だったりする可能性もあります。そのため、手間や負担がかかってしまうことは事実ですが、信頼性・正確性の高い調査結果を確保するには、質の高い協力的なモニターを集める必要があります。また、「全体的にテーマに添って回答されているか」にも意識しながら、調査をコントロールできるスキルを持つモデレータ(司会者)の存在も重要です。

まとめ

エスノグラフィは、ターゲットの潜在的な課題やニーズを把握できることから、市場調査などビジネスシーンでも役立てられます。また、スマートフォンやタブレットなどモバイル端末を活用したモバイルエスノグラフィであれば、リアルタイムで情報収集ができ、場所的にも制限がないため、効率的に調査をすることが可能です。例えば、ショッピングモールやテーマパークなどに実際に行ってもらい、その導線やその場で興味を持ったことなどについてリアルタイムで情報を共有してもらうことで、施設改善やコンセプト開発などにもつなげることができます。

エスノグラフィについて検討される方は、お気軽に弊社までお問い合わせください。

(digmar編集部)