バリュープロポジションとは?作り方や作成例、注意点など解説
バリュープロポジションとは、競合他社にはない自社独自の付加価値のことです。バリュープロポジションは「他社には真似できない独自の価値」、ブランドプロポジションは「企業が提供できる独自の価値」です。ニュアンスは若干異なるものの、ほぼ同義と捉えて問題ありません。
競合との差別化を図るうえで、このバリュープロポジションは重要な概念といえます。
この記事では、バリュープロポジションの意味や重要性、作り方、注意点などについて解説します。
目次
バリュープロポジションとは
競合他社にはない、自社独自の付加価値のことを「バリュープロポジション」といいます。バリュープロポジションについては、次の3つの要素を考慮すると理解しやすくなります。
- 自社が提供できる価値:自社の特長や強みを活かして提供できる価値
- 顧客が求める価値:顧客のニーズや要求に応えるための価値
- 競合他社が提供できる価値の排除:競合他社が提供する価値を排除し、自社独自の領域を確保すること
上記の領域が、バリュープロポジションの範囲です。成功している企業ほど、このバリュープロポジションを明確に持っています。
例えば、Appleは「シンプルで使いやすいデザインと高品質の製品を提供することにより、顧客のライフスタイルや仕事の効率を向上させる」というバリュープロポジションを持っています。また、Appleの強いブランド力は、競合他社には提供できない独自の価値といえます。
バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは
自社製品と顧客との認識のズレを防ぐフレームワークとして「バリュープロポジションキャンバス(VPC)」というフレームワークがあります。
バリュープロポジションとバリュープロポジションキャンバスには、次のような違いがあると考えられています。
- バリュープロポジション…市場ができあがっており、競合企業が参入しているときに用いられる
- バリュープロポジションキャンバス…市場ができておらず、競合企業が参入していないときに用いられる
バリュープロポジションキャンバスでは、上記の図2のような「顧客セグメント」と「自社が顧客に提供できる価値」を描きます。バリュープロポジションキャンバスの具体的な作成方法は、後ほど詳しく解説します。
バリュープロポジションキャンバスを用いることで、「自社が提供できる価値」と「顧客のニーズ」のズレを解消するのに役立ちます。
バリュープロポジションの重要性
バリュープロポジションは、なぜマーケティングにおいて重要なのでしょうか。の2つの重要性について解説します。
自社と顧客の認識のズレを防ぐ
バリュープロポジションは、自社と顧客の認識のズレを解消することに役立ちます。
自社製品の売上で伸び悩んでいる場合、その原因の1つとして、企業が想定している自社の強みと弱みが、顧客が認識しているものとズレがある可能性が考えられます。特に「自社の強み」と「市場で求められるニーズ」に齟齬があると、自社製品の売上が伸び悩むのは必然です。
このような状況を改善するためには、バリュープロポジションキャンバスを利用して、自社製品と顧客ニーズとのズレを解消する必要があります。あらためて顧客の「ゲイン(顧客の利得)」と「ペイン(顧客の悩み)」を洗い出し、そこに対して自社製品がニーズに応えられているかをバリュープロポジションキャンバスから再確認します。
価格競争から脱することができる
バリュープロポジションの意義は、競合他社が提供できない価値を提供することにあります。バリュープロポジションを分析し、競合企業にはない価値を明確にできれば、価格を下げることで競合優位性を発揮する必要はありません。そのため、企業は不要な値下げをすることなく、利益を守ることができます。
バリュープロポジションを明確にすることは、価格競争からの脱却にもつながります。
バリュープロポジションの作り方
バリュープロポジションは、顧客のニーズに沿って、競合にはない自社独自の価値を提供することが本質です。
「自社が提供できる価値」「顧客が求める価値」「競合他社が提供できる価値の排除」の3つの条件を満たすバリュープロポジションの作り方は、次の順で行います。
- 仮説を立てる
- 3C分析
- STP分析
①仮説を立てる
既にできあがっている市場において、競合が提供できていない価値についてまず仮説を立てます。「今の市場では◯◯というニーズを満たしていないのでは?」「△△という商品があれば、より顧客は便利になるのでは?」というようにして仮説立てを行います。
仮説立てで重要なことは、根拠に基づいて組み立てることです。例えば「◯◯という商品があると便利という顧客からの要望が多い」という場合、顧客視点に基づいて仮説を立てられます。自社の希望的観測に基づいて仮説立てをしてしまうと、顧客が求める価値から乖離してしまうので注意しましょう。
②3C分析
バリュープロポジションを作るのに適したフレームワークが、3C分析です。3C分析は顧客・市場、競合、自社の3つを分析するフレームワークですが、バリュープロポジションとうまく合致しています。
- 顧客・市場(Customer)↔︎ 顧客が求める価値
- 競合(Competitor)↔︎ 競合他社が提供できる価値の排除
- 自社(Company)↔︎ 自社が提供できる価値
このように、3C分析を進めることで、バリュープロポジションも明確になります。
3C分析の中でも特に重要なのが、顧客・市場(Customer)の分析です。バリュープロポジションは顧客の求める価値から生まれるものであるため、より正確に顧客・市場を分析する必要があります。
アンケートやインタビューなどを調査し、得られたデータを専門的に分析することで、市場・顧客が求めている価値を客観的に明らかにします。
関連記事>>3C分析とは?必要性や手順、フレームワーク、具体例などを解説
③STP分析
3C分析のみでは、バリュープロポジションはまだ抽象的です。そこで、STP分析に落とし込み、より具体的に優位性(ポジショニング)を明らかにします。
- Segmentation(セグメンテーション):市場の細分化
- Targeting(ターゲティング):市場の選択
- Positioning(ポジショニング):標的市場でのポジション明確化
3C分析で市場を捉えても、通常それはかなり広いものになります。そのため、まずは「セグメンテーション」によって、市場を細かくして見ます。次に「ターゲティング」によって、細分化された市場の中から、自社が標的とする市場を選択します。最後の「ポジショニング」によって、標的市場の中で自社が取るべきポジショニングを明確にします。
上記の手順を踏むことにより、自社が優位性を発揮できる分野を明確にできるため、自ずと「顧客ニーズを満たす」ものでかつ、「競合が提供できていない、自社だけが提供できる価値」がわかるのです。
バリュープロポジションキャンバスの作り方
先述したバリュープロポジションの作り方は、既に市場ができあがっているときに有効な方法です。一方で、まだ市場ができておらず、競合企業が参入していないケースでは「バリュープロポジションキャンバス」を作ります。
ここからは、バリュープロポジションキャンバスの作リ方について詳しく解説します。
1.顧客セグメントを設定する
まずは、図の右側である「顧客セグメント」を設定します。つまり、ペルソナを作ることと同義です。自社製品のターゲットとなる人物像を明確にします。
バリュープロポジションキャンバスでは、顧客セグメントでのターゲットはおおまかに作られることが多いです。一方で、より現実的な顧客セグメントを設定したい場合は、詳細なペルソナを設定しておくのがおすすめです。
ペルソナの作り方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事>>マーケティングで使うペルソナとは?メリットや注意点を解説
2.顧客のニーズを分析する
1で作ったペルソナを基に、顧客のニーズを分析しましょう。
バリュープロポジションキャンバスでは、上の図の「①顧客が実現したいこと」「②ゲイン(顧客の利得)」「③ペイン(顧客の悩み)」の3つを明確にします。動画配信サービスを例に考えてみると、次のように顧客のニーズを分析できます。
- ①顧客が実現したいこと:好きな時間に、好きな場所でドラマや映画などを見られるようになりたい
- ②ゲイン(顧客の利得):スマートフォンがあればいつでもドラマや映画を見られる
- ③ペイン(顧客の悩み):映画館に行ったり、テレビで録画したりするのが面倒
動画配信サービスを利用する人の多くには「好きな時間に、好きな場所でドラマや映画などを見られるようになりたい」というニーズが根本にあると考えられます。
次に、ここでの顧客の利得は「スマートフォンがあればいつでもドラマや映画を見られる」という点です。同時に、顧客の悩みである「映画館に行ったり、テレビで録画したりするのが面倒」という問題を解消できます。
3.競合優位性を把握する
2で顧客のニーズを把握したあとに「顧客に提供できる価値を分析する」のが一般的ですが、その前に忘れてはならないフェーズが「競合優位性を把握する」ことです。
バリュープロポジションの真髄は、上の図にあるように「競合他社にはない、自社が提供できる価値」にあります。そのため、顧客に提供できる価値が競合と被らないように、まずは自社製品で競合優位性を発揮できている部分を確認する必要があります。
ここで、Netflixを例に考えてみました。Netflixは、次のような競合優位性を発揮しています。
- 圧倒的な知名度によって、ユーザーから選ばれやすい
- 世界で2億人以上の会員数がいるNetflixは、オリジナルコンテンツ制作に多額の投資が可能。オリジナルコンテンツが、視聴者がNetflixを選ぶ理由となっている
- ユーザーフレンドリーなUI/UXで、直感的に使いやすく設計されている。「イントロのスキップ」や「視聴履歴に基づいたおすすめ動画の表示」などによって、ユーザーの利便性を高めている
なお、競合優位性を確認するためには、自社の外部と内部の環境を分析します。その際、便利なフレームワークは3C分析なので、ぜひ活用してみてください。
4.顧客に提供できる価値を分析する
競合優位性を把握したあと、それに沿って自社が提供できる価値を分析します。このフェーズでは、上の図の「④製品・サービス」「⑤ゲインクリエーター(顧客に利益をもたらすもの)」「⑥ペインリリーバー(顧客の悩みを解決するもの)」の3つを考えます。
この3つについては、2の「①顧客が実現したいこと」「②ゲイン(顧客の利得)」「③ペイン(顧客の悩み)」と連動させて、次のように考えてみました。
- ④製品・サービス ↔︎ ①顧客が実現したいこと
- ⑤ゲインクリエーター ↔︎ ②ゲイン(顧客の利得)
- ⑥ペインリリーバー ↔︎ ③ペイン(顧客の悩み)
先ほどの動画配信サービスの例を挙げると、①顧客が実現したいことである「好きな時間に、好きな場所でドラマや映画などを見られるようになりたい」に対して、Netflixの「動画配信サービス」という④製品・サービスが解決策となります。
次に、②ゲイン(顧客の利得)である「スマートフォンがあればいつでもドラマや映画を見られる」については、Netflixの「アプリでいつでも見られる。さらに、事前にダウンロードすればオフライン視聴も可能」が⑤ゲインクリエイターであると考えられます。
③ペイン(顧客の悩み)である「映画館に行ったり、テレビで録画したりするのが面倒」に対しては「Netflixの豊富な作品数で、好きな時間にドラマや映画を見られる」という点が⑥ペインリリーバーとして挙げられます。
バリュープロポジションの作成例
実際に世の中にある商品・サービスを例に、バリュープロポジションの作成例を紹介します。
①会計ソフト
会計ソフトでは、会社や個人事業主の会計処理を記録し、必要な場合には決算書や確定申告書などの帳簿書類を生成することができます。会計ソフトのバリュープロポジションには、次のような要素が考えられます。
- 使いやすさ
会計処理は複雑な作業だが、会計ソフトの使いやすいUI/UXによって、直感的な作業を行えるようにしている - 自動化された業務処理
会計処理の自動化によって、仕訳の自動化や勘定科目の自動振替機能、データの自動入力機能といった業務の効率化につながる機能を提供している - サポート体制の充実
会計ソフトに関してトラブルや疑問が生じたとき、コールセンターやチャットサポートなどのサポート体制を充実させている
②コミュニケーションツール
SlackやChatworkなどのコミュニケーションツールは、社内外での連絡をスムーズにし、業務効率を向上させることにつながります。コミュニケーションツールのバリュープロポジションには、次のような要素が考えられます。
- 迅速なコミュニケーション
メールよりも素早くメッセージの送受信ができるため、プロジェクトの進行や意思決定などを迅速化できる - シンプルで使いやすい機能
直感的で使いやすく、誰でも簡単に利用できる。メッセージの送信やファイルの送付、タスクの割り当てなど、さまざまな機能を直感的に操作できる - スマートフォン対応
モバイルアプリからの操作が可能で、利便性に優れている。外出中でもスマートフォンやタブレットから、メッセージの送返信やファイルの閲覧、ダウンロードなどが可能
③タクシー配車アプリ
海外で人気を集めるタクシー配車アプリは、国内でも普及しつつあります。タクシー配車アプリのバリュープロポジションには、次のような要素が考えられます。
- 便利さ
スマートフォンで簡単にタクシーを配車できるため、待ち時間を短縮したり、目的地にスムーズに到着したりできる - 安心感
車両の運転手情報や乗車料金などが事前に確認できるため、利用者は安心してタクシーに乗車できる - 使いやすさ
使いやすいUI/UXで設計されており、ユーザーは直感的に必要な情報を見つけられるので、ストレスなく利用できる
バリュープロポジションを作成する際の注意点
バリュープロポジションを作成する際の注意点を3つ解説します。
自社の思い込みで作成しない
バリュープロポジションを作成する際は、自社の希望的観測が入らないよう注意しましょう。「顧客はこのような商品を求めているだろう」と、思い込みでバリュープロポジションを設定しても、顧客が実際に求める価値から乖離していると、商品やサービスは売れません。
バリュープロポジションは、常に顧客視点で考えるようにしましょう。現実に即したバリュープロポジションを作成するには、顧客を深く理解することが重要です。顧客の解決したい課題や利得、悩みなどを把握するために、リサーチ会社に調査を依頼するのもおすすめの方法です。
競合優位性を中心に考えない
バリュープロポジションでは競合優位性が重要ですが、それ以上に顧客視点を重視することが必要です。バリュープロポジションが「競合では提供できていない価値」に焦点を当てることばかりになり、顧客視点が薄れてしまっては本末転倒です。
特に商品・サービスが飽和している業界では、競合優位性を発揮するのは難しいケースもあります。そのような場合には、顧客を第一に考えるようにしましょう。
「バリュープロポジション=低価格」は本末転倒
バリュープロポジションを「他社よりも低価格で提供する」に定めるのは、本質から外れています。価格での差別化は、一時的な競争優位性を生み出す場合もありますが、長期的な持続性には欠けるほか、他社が価格を下げた場合にその価値が失われる可能性があります。
バリュープロポジションを考える際は、価格ではない他の要素で差別化を図るようにしましょう。
まとめ:バリュープロポジションで自社だけの価値を提供する
バリュープロポジションとは、競合他社にはない自社独自の付加価値のことです。バリュープロポジションを分析することは、自社と顧客との認識のズレを防ぐことにつながります。
バリュープロポジションでは、顧客の解決したい課題や顧客の利得・悩みを正確に知る必要があります。本メディアを運営する株式会社マーケティング・リサーチ・サービスは、1959年創業の、市場調査に長けた調査会社です。インターネット調査や訪問調査、パーソナルインタビューなどで、顧客を調査することが可能です。顧客の調査を考えている企業様は、ぜひ弊社までお問い合わせください。
(digmar編集部)