江崎グリコの創業の精神が生んだ適正糖質ブランド「SUNAO」。業界の課題は健康を伝えること

江崎グリコによる適正糖質ブランド「SUNAO」は、糖質オフダイエットがトレンドになる以前の2017年から発売され、アイスクリームをはじめとする自分の気持ちに素直に食べられる食品をラインナップ。2022年春には新しくパスタを発売しています。健康と食を結ぶブランドの誕生の経緯や、根底に根ざす江崎グリコの創業の精神についてうかがいました。

【お話をうかがった方】
江崎グリコ株式会社
健康事業マーケティング部
ブランドマネージャー
原田氏

管理栄養士から相談からスタート。創業の精神に根ざすブランド立ち上げへ

まずはSUNAO開発の経緯を教えてください。

原田氏(以下、原田):SUNAOのブランド誕生前に、「カロリーコントロールアイス」という商品を展開しており、これが前身となっています。開発は、「糖尿病の患者さんでも安心して食べられるアイスを作れませんか?」と管理栄養士からの相談を受けたことがきっかけ。2001年より、カロリーを気にする方でも安心して食べられるアイスの研究をはじめ、2003年に発売したのが、「カロリーコントロールアイス」でした。

ーー「カロリーコントロールアイス」の反響が大きく、ブランドを立ち上げられたのでしょうか?

原田:お客さまから喜んでいただいたという経緯もあります。それ以上に、生活者の健康のために、江崎グリコ創業以来の精神に根ざした商品を広めていきたいという思いがありました。

グリコの存在意義は「すこやかな毎日、ゆたかな人生」です。江崎グリコは、「食品による国民の体位向上」という強い願いから生まれた企業です。創業者である江崎利一が、創業当初に売り出したのも、牡蠣の煮汁を活用したグリコーゲン入りの栄養菓子「グリコ」です。江崎グリコには、生活者の皆様の健康をサポートし、創意工夫により「おいしさと健康」を価値として提供し続ける不変の創業の精神があります。

カロリーコントロールアイス発売当初は病院の売店などで販売していて、ターゲットが狭く、療養食のイメージが強くありました。そこで、創業の精神である未病という観点に立ち返り、健康に関する視点を「カロリー」から「糖質量」に置き換え、糖質が気になる人もそうでない人も、すべての人が食べることを楽しめるブランド「SUNAO」にリブランディングしました。

発売当初は新ブランドということもあり、認知広げるためにも「自分の気持ちに素直に食べられる」というイメージをわかりやすく表現、お客さまとのコミュニケーションも一新しました。

ーーSUNAOのターゲットとして、どんな層をイメージされているのでしょうか。

原田:幅広い層にご購入いただきたいのですが、メインターゲットは30代後半以降の男女です。一般的なアイスクリームは30代女性がボリュームゾーンですが、ブランドのコンセプトなどから、健康や体重管理を気にする少し上の年齢層をメインに設定しています。実際の購買層は、50代、60代が多いですね。お客さまからは、食べはじめたきっかけとして「服の前のボタンが閉まらなくなってきた」「健康診断で数値が良くなかった」とのお声をいただいています。このターゲット自体はブランドがスタートしてから変わりません。

ーーブランド立ち上げ当初から変化した部分はありますか?

原田:発売当時は糖質オフの食品や完全食などが一般的ではなかったこともあり、機能性をうたうと購入のハードルをあげてしまうということがありました。

糖質オフを大々的に打ち出すと、「本当は買って食べたいんだけどレジに持っていくのが恥ずかしい」という方や、自分向けじゃないと感じる方もいて、「おいしくないのでは」とネガティブな印象を与えることも。大前提としておいしくて、だれでも食べられることを印象付けるようなチューニングをしました。

おいしいから買いたいを目指して飽くなき改良で品質アップ

ーーアイスクリームやビスケットなどの中身の味わいなどに変更はありましたか?

原田:機能面もありながら「おいしいから買いたい」と思っていただきたいので、中身についてはもう飽くなき改良といいますか、どんどんおいしくなってます。

アイスクリームに不可欠な乳成分には、乳糖という糖質が含まれている一方で、糖質オフを叶えるためには、乳成分も砂糖も控えないといけません。控えるとおいしさが損なわれてしまうので、ここの開発が非常に難しいんです。それを2021年の秋には、一部のアイテムで大幅な品質アップに成功。アイスクリーム類は乳固形分と乳脂肪分の量によって、ラクトアイス・アイスミルク・アイスクリームとランクが変わるのですが、乳固形分と乳脂肪分をアップさせ、アイスクリームという規格に改良しました。

ーーそうした商品の改良は独自の研究で培ったものなのでしょうか?

原田:そうですね。詳しいノウハウは社外秘です。他社でも同じかと思うのですが、糖質オフの商品は乳成分や砂糖を置き換える際に、食物繊維を利用します。でも実は食物繊維って苦くて、乳成分の味のふくらみを弱くしてしまう、アイスクリームを作る上ではマイナスにもなる特性を持っています。食物繊維の選定や日々の研究でこれらをカバーし、独自のうま味成分で乳の深みを表現できるようになりました。

また、ビスケットも本当においしい自信があります。糖質やカロリーを抑えたビスケットは、食感や風味が悪く、物足りなさを感じる商品に仕上がりがちです。その要因のひとつは、糖質の代替となる食物繊維にあります。不溶性の食物繊維を使用するとボソボソ、水溶性を使用するとガリガリと固い食感に。私たちは研究を重ねて、独自の配合の妙でしっとりサクサクした食感のビスケットに仕上げています。

ーーおいしくなった理由として、食品業界の技術向上もあるのでしょうか?

原田:業界自体の技術向上や、サプライヤーからの原料の提案などもありますね。ただ、味わいの進化は社内での試行錯誤による知見の蓄積が大きいと捉えています。

ブランド立ち上げ時から構想していた主食カテゴリー

ーーアイスクリームやビスケットなどのおやつ類から発売されて、2020年以降はリゾットやパスタなどの主食類も展開されていますね。おやつから食事へと商品ラインナップを広げられた理由を教えてください。

原田:社会課題の解決や、多くの人に「食を楽しみながら健康でいてもらいたい」という目的を叶えるためです。持病や体質、環境など、生活者はさまざま要因で糖質を気にしています。そうした方にも、ピンポイントなメニューの提供にとどまらず、日常的に適正な糖質を考えた食生活を提案したい。そのためにはもっとラインナップを増やしていかねばなりません。

アイスクリームからはじめて、現在は販売中止していますが、プリンなども発売しました。少しずつカテゴリーを広げて、リゾットやパスタなど主食類の発売に至りました。

ーーブランドが誕生したときは、どのあたりまで構想があったのでしょうか?

原田:これまでの展開はアイスクリームを発売した当初から、視野に入れていました。主食類を開発しはじめたのも方向転換ではなく、中長期的に考えていたプランが整ってきたためです。

ーー主食類というと米飯や麺類などいろいろなメニューがあると思います。リゾットとパスタを選ばれたのはなぜでしょう?

原田:リゾットの選定理由として、コロナ禍前に「遅い時間まで働いて疲れて帰ってきて、あんまり食べ過ぎたらいけないと思いながら、気持ちとしてはガッツリ濃いものを食べたい」という意見を参考にしました。この葛藤を汲んで、濃厚な味わいでありながら、体にやさしいメニューにしようと考えたのです。リゾットは白米よりもしっかり味がついていて、満足感があります。

また、忙しい昼食は簡単に済ませられる糖質の高いメニューが多いので、パスタはそんなシーンにぴったりです。乾麺だと買い置きしやすく、レトルトのソースを和えるだけでバリエーションが出ます。汎用性が高いので、食卓での登場頻度が高いというのも理由のひとつですね。糖質が高い食品の代替を発売する意味は大きく、お客さまにも喜んでいただけると思っています。

ーー2022年に発売したパスタは重要なポイントになりそうですね。開発はいつ頃から着手していたのですか?

原田:実は、パスタは2020年発売のリゾットと同じくらいの時期に開発をスタートさせています。工場との調整が難しいことや、開発の知見がないことなど、いくつものハードルがあり、納得のいくおいしさを実現するのに苦戦しました。

リゾットはレトルトの知見があったので、比較的時間はかかりませんでしたが、パスタは発売まで1年ほどかかりましたね。

ーーSUNAOブランドの商品は、おやつ類と主食類で部門を分けて研究開発されているんですか?

原田:いえ、同じです。私が所属しているのは10年ほど前に生まれた部署でして、創業時の想いに今一度立ち還り、社会に貢献するような事業で循環を生む目的で作られました。

ーー近年になってSDGsなどの観点で重要視されていることを、10年以上も前からやっていらっしゃったのですね。

原田:創業者の江崎利一は、先見の明があったのだと思います。

いま必要なのは「本当に健康にいい食」の知識啓蒙

ーーSUNAOの今後の展開をお聞かせください。

原田:まだお伝えできるものはないのですが、適正糖質を理解して頂き、おいしく楽しく、健康な食生活をご提案するためにも、もっとアイテムを拡充していきたいと考えています。

ーー近年は、糖質制限をはじめ健康意識の高い生活者も多く、SUNAOのブランドコンセプトを受け入れる土壌ができているのではないかと思います。今後のお客さまの反応も楽しみですね。

原田:そうですね。時流もありつつ、さまざまなメーカーや団体が健康への知識啓発をしてきた努力の成果でもあります。
今後は現在おこなっている、生活者が正しい知識をもって、エビデンスのある商品を選んでもらうための活動にも一層力を入れていきたいです。糖質制限のほか、世の中には健康な食に関するさまざまな情報が溢れています。その中で、生活者が必要な情報や知識を得られるようサポートするのも食品業界の役割。担っていかなければいけない課題だとも捉えています。

ーー健康志向が高まる中で、「健康にいい食事」が何かわからず、戸惑っている生活者も多いと思います。具体的にはどういった活動をされているのですか?

原田:SUNAOとは別にはなりますが、これまで江崎グリコは北里研究所病院の山田 悟先生の「ロカボ」を合言葉にしたイベントなどに協賛し、健康的な食事や正しい糖質制限を広める活動をおこなってきました。2013年の発足当初の協賛企業は、4社ほどでしたが、今や80社超え、「ロカボ」の認知度も上がっています。
ただ、言葉は知っていても内容まで理解している人は、全体の15%ほど。まだまだ私たちが伝えたい糖質を正しく摂る「適正糖質」の考え方を広めていかなければいけないと思っています。今後も、グリコらしく「おいしさと健康」に向き合っていきたいです。

ーーありがとうございました。

※この記事はクックパッド株式会社が運営するFoodClipからの転載記事です。

(digmar編集部)