「睡眠課題」の解決へ。カルビー初の機能性表示食品「圧倒的顧客志向」で生まれた開発の背景とは
「かっぱえびせん」「じゃがりこ」など数多くのヒット商品を持つカルビーが、初の機能性表示食品として睡眠サポート食品『にゅ~みん』を発売。
新たな食領域での事業創出をビジョンに掲げているなか、睡眠課題に着目し、販売するまでの開発の経緯や、2020年のテスト販売から今回の本格販売までの改良点や戦略のほか、開発を担当した「圧倒的顧客志向」を理念とした独自の開発拠点「Calbee Future Labo(カルビー フューチャー ラボ)」が目指しているものについてお伺いしました。
【お聞きした方】
カルビー株式会社 新規事業本部 Calbee Future Labo
橋本 利和様
大西 菜穂子様
開発の背景について
まずは「にゅ〜みん」の商品の概要・コンセプトやターゲットを教えてください
橋本:「にゅ〜みん」は睡眠の質を高める、起床時の疲労感を和らげる効果のあるクロセチンを配合した機能性表示食品です。「寝る前のあらゆるハードルを下げる」というコンセプトのもと、口に含めば水がいらずに溶けてしまうフィルムタイプであることが大きな特徴です。
睡眠の手助けをする商品は既に多く発売されていますが、その中で「にゅ〜みん」はライト層をターゲットにしています。
口に入れるだけ、水無しでトイレの心配がなく利用できると言う手軽さがありますので、常に不眠に悩んでいる方というよりは、例えば「翌日に大事なプレゼンを控えていて眠れない」「出張先で枕が変わって寝づらい…」「日中の仕事のミスが気になって…」などのシーンでの利用を想定しています。
そうしたライトユーザーを増やしていくことで、睡眠市場の裾野を広げていきたいと考えています。
そもそも貴社として睡眠課題に注目した理由やきっかけはなんだったのでしょうか?
大西:今回開発を担当した「Calbee Future Labo」は「圧倒的顧客志向」を理念に商品開発を行っている組織です。そのための方法として、多くの消費者に対して1週間の行動記録のリサーチとインタビューを行い、ニーズを深掘りしているのですが、睡眠に悩みを持っている人が非常に多いことがわかりました。
しかし、そうした方の多くが特に対策をせず「諦めている」ということも同時に見えてきました。
何故かというと、悩みを感じている反面、既存の手段に対して「睡眠薬を飲むほどではない」というような意識やハードルの高さ、抵抗感がある。ここが開発の出発点となりました。
それで「ライトユーザー」がターゲットになったわけですね。可食性フィルムという特徴もそうした観点でのこだわりになるのでしょうか。
大西:そうですね。睡眠薬以外にもサプリメントなどのライトな手段はありますが、デプスインタビューで課題をさらに深掘りしていくと、そうしたものを試してみたことがある方もいたのですが、3〜4錠飲む必要があったり、味が良くなかったりなどを理由に、途中で止めてしまった方が非常に多かったのです。
ここには「睡眠」というものの特殊性があると感じています。
寝る前というのはやはり「自分が心地良いことをしたい、面倒なことはしたくない」という意識が非常に高まる時間帯です。そうしたシーンで生まれるハードルを、枕元に置いておけて、香りが良く口に入れるだけでサッと溶けるフィルム、という形なら解消できると考えました。
可食性フィルムというアイディアや技術については、既に社内にあったものだったのでしょうか?
大西:「Calbee Future Labo」では顧客ニーズを解決するための開発のほか、それを実現するための技術のリサーチ、収集も継続的に行っています。その中で可食性フィルムについての情報を既にキャッチしており、その情報が今回顕在化した課題に対して適切な手段としてリンクし、そこから開発が進んだという形になります。
テスト販売で得た知見や改良の過程・本格販売後の反応について
約2年半の開発期間を経て、まず2020年11月に数量限定でテスト販売されました。この開発期間で最も時間をかけた領域や注力したことは何でしょうか?
大西:テスト販売までの過程では、フィルムの利便性と効果を両立する適切な睡眠素材を見つけることがポイントでした。フィルムの形態ですと入れられる成分の量に制限が生じてしまうため、少量でもきちんと効果を生み出す成分のリサーチが大変でした。
一度決まりかけたものがあったのですが、それだとフィルムが2枚必要になってしまい、今回解決したい課題、提供したい体験にマッチしないため断念した、ということもありました。
そうした尽力の末行ったテスト販売では、どのような知見や手応え、想定とのギャップなどが得られたのでしょうか?
橋本:今回ターゲットと捉えた層で睡眠に悩んでいる方が確実にいることが改めてわかり、さらにフィルムタイプでも効果を実感してくれた方が大半であったことは大きな手応えでした。その結果を元に本格販売に進んでいきました。
その中で、想定との一番のギャップは価格の部分でした、当初は枚数を多めにし、1,000円を超える価格で販売をしたのですが、それだとなかなかトライアルが難しくなってしまうことがわかり、本格販売時には枚数を減らして1,000円を切る形で販売を行いました。
あとはデザインの部分です。テスト販売の段階では理想的なものではなかったこともあるのですが、商品の評価に対してパッケージデザインの評価があまり良くなく、コンセプトをきちんと伝えるために本格販売に向けて大きく改良を施しました。
本格販売後の反応は想定に対していかがですか?
橋本:現在ドラッグストアを中心に、ほぼ全国で販売しています。
また、テストマーケティングとして、ビジネスパーソンや新商品への関心の高い方が多い静岡エリアでお笑いトリオの「ハナコ」さんを起用したCMを流しています。「ハナコ」さんの起用理由や作成意図としてはやはり親しみやすさやライトな層の取り込みという点ですね。まずは静岡で成功事例を作って横展開していければと考えていましたが、既に結果として静岡とそれ以外のエリアで売り上げに大きな差が出ています。
今後もドラッグストアでの販売を軸にしていく予定で、カルビーとしては今までにないカテゴリになりますので、さまざまな取り組みで取り扱いや販売に注力いただけるチェーン様を増やしていきたいと考えています。
企画・開発時に重視した・意思決定に影響したアンケート・リサーチデータについて
冒頭でも少し触れていただいていましたが、企画・開発に際してどのような調査を行い、得られたデータや声をどのように活用していましたか?
大西:先ほど申し上げたように、我々が最も重要視している顧客の課題・ニーズの抽出に関しては、事前にインタビュー相手に1週間の生活記録を取っていただき、その後1時間のインタビューに答えていただく、という形の定性調査を行っていました。生活記録を元にその行動の奥にあるニーズや課題を深掘りし、今回の出発点である「睡眠課題を諦めている人」のように、ニーズを顕在化することが目的です。
こうした調査は全ての商品で基本としているフローで、5年間で2,000件以上のインタビューを行っています。
この取り組みで特徴的なのが、インタビュアーとして我々社員だけでなく、「Calbee Future Labo」の拠点である広島の大学生を起用している点です。1年〜1年半ほどインターンシップという形でみっちりと生活者の課題調査を行っていただいています。
インタビュアーとしての学生さんの「強み」は、「社会人への固定観念がない」という点です。素朴な質問から我々がついつい見逃してしまう課題のタネを見つけてくれることもあります。
テスト販売・本格販売後の調査もそういった定性的なデータを重視しているのでしょうか?
橋本:今回で言えば、テスト販売時に二次元バーコードを付帯し、定量・定性ともに調査を行いました。定量的には効能や商品の強みがきちんと伝わっているかの確認、フリーコメントでより細かい感想や要望を拾っていきました。そこで最も重要視したのはやはり効能実感の部分ですね。
「にゅ〜みん」の今後について
今後の「にゅ〜みん」の販売・コミュニケーションはどのようにお考えでしょうか?
橋本:まずはしっかりと商品を定着させること、身近に手に取ってもらえる定番になるために注力していきます。いかに認知を広げていくかも重要ですので、継続したプロモーションも行っていきたいです。
「睡眠課題の解決」という点に対しては今後も注力されていくご方針なのでしょうか?
橋本:今年3月に睡眠に関する研究をしている株式会社S’UIMINに出資を行いました。こちらの会社と連携して、新たな課題解決につながる商品開発に繋げていきたいと考えています。
「Calbee Future Labo」について
最後に、お二人が所属している「Calbee Future Labo」について伺えればと思います。非常にユニークな組織かと思うのですが、創設の背景や目的を教えてください。
橋本:テーマとしては「カルビーの次なるヒット商品を作り出すこと」、そのために従来と違った視点で開発を行うことを目的に、「Calbee Future Labo」は作られました。従来の開発組織とは別の組織として、カルビーが得意なスナックやシリアルとは違ったカテゴリへの進出ができる商品の開発及びマーケティングまでを一貫して担当しています。
既に「にゅ〜みん」が第四弾の商品となりますが、現状の課題やイノベーションのための超えるべきポイントなどはありますでしょうか?
橋本:新カテゴリを作る、と言うよりもあくまでも生活者の問題を解決する「圧倒的顧客志向」を今後も常に基本としていきたいと考えていますが、まだまだそのための手法やフローに改善の余地はあると思っています。
大西:生活者の課題を如何に吸い上げるか、そのための調査の粒度は何が適切か、未解決の課題をより吸い上げるためにはどうすればいいか、常に試行錯誤を重ねています。
他に注目している領域があればご教示いただける範囲で教えてください。
大西:詳しくは言えない部分もあるのですが、今進めているもので多いのは「今まで食で解決できていなかった課題」に対しての商品です。新たな領域に踏み込み、今後もお客様の課題解決に本気で取り組んでいきます。
<インタビュー後記>
メーカーさんの社員の方々が、消費者に対して本格的にインタビューをしているケースはあまり聞いたことがなく、正直驚きました。今の時代は情報は溢れており、少し調べるだけでわかってくることも多いです。そのような時代でも、”生の声を聴く”というリサーチの原点とも言うべき事が大事であるということを改めて知ることできました。弊社でもインサイトにフォーカスしたご相談も増えており、このような情報社会の中でも定性調査の重要性を見直されているのではないかと感じております。ぜひとも、弊社で何かできることがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
そして「にゅ~みん」の今後の展開が楽しみです。今後の動向について注視していきたいと思います。
「にゅ~みん」
取材協力:カルビー株式会社
(digmar編集部)