「BEYOND TOFU」の着眼点。相模屋代表がみせる豆腐屋の意地【前編】

相模屋食料は、2010年に売上高100億円を達成。2004年から18年間で売上11倍にまで業績を伸ばしたトップメーカーです。代替食やプラントベースフードが注目される中でBEYOND TOFUシリーズもさらに人気が高まり、新商品の「うにのようなビヨンドとうふ」も大ヒット中。本記事では前後編に分けて、代表取締役社長であり商品開発を手がける鳥越淳司氏に、豆腐業界に革命を起こす商品開発の着眼点をうかがいます。

<お話をうかがった方>
相模屋食料株式会社
代表取締役社長
鳥越 淳司 氏

豆腐売場に革命が起きた「ザクとうふ」

まずは、BEYOND TOFUシリーズ最初の商品でもある「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」の開発経緯についてお聞かせください。

鳥越 淳司氏(以下、鳥越):そうですね。常々、私は「おとうふをおもしろくする!」ことが重要だと考えて、新商品の開発に取り組んできました。当社では「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」発売前の2012年に、機動戦士ガンダムとのコラボレーション商品である「ザクとうふ」を発売しています。こちらは私の趣味で開発した商品なのですが、発売してみたらファンの皆さんから大きな反響がありました。ここでひとつ、今までの豆腐業界では考えられなかったことが起きたのが、BEYOND TOFUの事業を進めるきっかけになりましたね。

豆腐業界で考えられなかったこととは、どういったことですか?

鳥越:何が起きていたかというと、ニッチな商品が爆発的に売れるという革命です。豆腐はそもそも日本の伝統食品ですから、これまでの業界では「老若男女誰もが食べられる商品でなければいけない」という固定観念がありました。「ターゲットを絞った豆腐は邪道で売れない」といわれていたのです。
では「ザクとうふ」は誰が買ってくれたのか。当時、30〜40代男性を中心としたガンダムのファンです。普段、豆腐には全く関心のない多くのお客さまが、スーパーの豆腐コーナーに訪れてくださいました。これによって、ニッチな豆腐もお客さまのニーズがあれば売れることが証明されたのです。その後、2014年に発売したのが「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」です。

BEYOND TOFUシリーズはランウェイから出発

鳥越:見向きもしてもらえないと思っていた30〜40代男性に響いたわけですから、F1層と呼ばれる20〜30代の女性をターゲットにするのはどうだろうと考えました。豆腐業界の感覚だと非常に難易度が高く思えるのですが、ファッション関係の方に話をうかがうと、意外にも「若い女性にとって豆腐は非常に身近なんですよ」というわけです。私たちがその層へ向けて商品を作っていなかっただけで、実はダイエットの文脈で日頃から食べる習慣があったのですね。

そこでリサーチも兼ねて、東京ランウェイというファッションショーを見に行きました。ランウェイを歩くモデルやタレントを応援するお客さまの熱狂に圧倒され、私のイメージしていたターゲットとのギャップも実感しました。さらには、登場したアイテムが飛ぶように売れていく。冷静に考えると、構図はテレビショッピングと大きく変わりません。つまり、現場のパワフルな渦にいると購買欲がそそられるんです。私はここでモデルさんに商品を持ってランウェイを闊歩していただいて、「豆腐もキャーキャー言われたい」と思いました。

そこで生まれたのが、ターゲットの求めている機能性とおいしさを合わせた、“スイーツのようにも食べられる”豆腐です。当時ハワイのナチュラルフードがトレンドになっていたのにもヒントを得て、ケミカルな感じのしないヘルシー感たっぷりの自然体な商品に仕上げました。

今までの豆腐にはなかったクリーミーでリッチな味わいが実現したのは、不二製油との協業があったからでしょうか?

鳥越:そうですね。協業は後に不二製油の社長になる方と出会って、偶然相談を受けたことに始まります。不二製油は植物性油脂や大豆加工素材などを扱う企業です。相談の内容は、製品を作る過程で低脂肪の豆乳と豆乳の脂肪分を分けるのですが、脂肪分を多く含んだクリームの方が余ってしまう。「何かに使えないか」という話でした。試しにいただいてみたら、生クリームのような味わい。ぜひ使わせてほしいという流れになりました。巡り合わせですね。

時代を経てF1層から

そうして発売された「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」が好評だったのですね。

鳥越:はじめにお披露目したのは神戸コレクションで、今も忘れませんね。最初はお客さまもピンと来ていない様子だったのですが、モデルさんがクラッチバッグを持つように商品をPRしてくださって、ステージが終わった瞬間に当社のブースに行列ができました。狙っていたターゲットにきちんと認知されたのは、非常に嬉しかったですね。好評だったので、それ以降は食品業界では珍しく、年2回のファッションショー開催に合わせて新商品を発売するようになり、次の商品を期待していただけるまでになりました。

ただ、ターゲットは頻繁にスーパーの豆腐売り場に立ち寄る方々ではないので、この商品が爆発的に売れ続けたわけではありません。続けているうちに、プラントプロテインや、プラントベースフードなどが登場して、徐々に購入層が拡大。BEYOND TOFUシリーズを立ち上げて、「BEYOND TOFU ナチュラル」にリニューアルして今に至ります。

購買層が拡大

リニューアルされてから、購買層も変わったんでしょうか?

鳥越:購買層が変わったというよりも、広がった印象です。当初のコレクションにいらっしゃるような F1層に加えて、男女関係なくSDGsへの意識や健康意識の高い層にもご購入いただけるようになりました。近年は植物性肉を中心に認知度も上がっていますので、皆さん違和感なく受け入れてくださっています。

また、発売当初はチーズの代替として認識されていた側面もありましたが、最近は多くの方がこういう食品だと認識しているようです。代替食ではなく、植物性のチーズとして購入いただいているからこそ、売上が伸びているんだろうなとも感じています。

海外ではイミテーションチーズともいわれますが、そう聞くとなんだかおいしくなさそうな感じがしますよね。日本国内でも機能性のある食品は一定のおいしさが損なわれているイメージがあります。一方で私たちは商品のおいしさに自信があるので、それが大きなチャンスだとも捉えています。食べてみたらすごくおいしいと思っていただける、このギャップも大切ですね。

新商品は和のプラントベースフード。ヒットの芽は社員が反対するアイデアにあり

馴染み深い豆腐が新たなおいしいものにアップデートされているのもカギですよね。先日発売されて話題を呼んだ「うにのようなビヨンドとうふ」もまさに。

鳥越:今回の商品では、初めての和の味に挑戦しました。目指したのはウニのような豆腐ではなく、“おとうふでつくったうに”です。高級な寿司店でいいウニがあっても、スプーンでパクパクは食べられません。その濃厚さや磯の香りゆえ、一口で満足してしまいますし、健康や金額を考えても足踏みしてしまいます。そこで、「ウニをスプーンですくってパクパク食べる」夢のような想いを豆腐で実現しました。
当社商品のひとり鍋シリーズで培った出汁の味わいや、これまでのBEYOND TOFUシリーズの製法など、自社のノウハウを結集して仕上げています。

こうした商品は、社長が考えられているそうです。

鳥越:私の発想から社員に「作ろう!」と呼びかけて、スタートすることがほとんどです。提案するたびに「何を言ってるんだこいつは」という目をされながら、商品実現への道筋を立てて進めています。今回の提案は、さすがにBEYOND TOFUシリーズの開発メンバーも驚いていましたが、冒頭でお伝えした「今までにないものでお客さまに楽しんでもらえる」と信じて、チャレンジしました。

幅広い誰かへ向けた商品は誰にも刺さりませんから、私は商品の入口として、ターゲットを絞ってその方へ届けばいいと割り切って開発しています。また、社員が賛成して進められるものは想像がついて、誰でも思いつくアイデアとも言えます。自分がこれだと思えて、社員が大反対するようなものがヒットするんだなという実感はありますね。

後編へつづく

※この記事はクックパッド株式会社が運営するFoodClipからの転載記事です。