BtoBマーケティング「専門職インタビュー」
~訪問看護の現場から(前編)~

今回は、訪問看護ステーションの看護師さんたちのお話です。超高齢社会を迎えるにあたり、ますます訪問看護の推進が期待されるなか、どのようなことが課題となりそうなのか、また、ビジネスにどのようなインパクトを与えそうなのかを探るため、最前線におられる看護師さんたちから現場のお話をうかがいました。

以下、ダイジェストでインタビュー内容を振り返ります。

訪問看護・訪問介護のイラスト(女性)

一人の患者さんとしっかり向き合えるのが「訪問看護」

~訪問看護ステーションで働くようになったきっかけは?~

訪問介護の仕事をする中で、医療行為ができないことに限界を感じ、看護の道を目指されたかた、病院の看護師ではできない「一人の患者さんにとことん寄り添う」という仕事を志向されて転職されたかたなど、訪問看護ステーションでのお仕事を選択された動機はさまざま。「患者さん」「看護師さん」という関係性に終始する病院での看護と違い、訪問看護ではお互いを名前で呼び合うので、はじめから関係の深さが違っているそうです。

他には、病院勤務の際、救急の現場で「なぜ、もう少し早く病院に連れてこれなかったのか」「こんな状態で病院まで運ぶのはどうなのか」という疑問から、訪問看護の重要性に気づかれ転職されたかたもおられます。

治癒を目的とするのではなく、長く症状に寄り添う

~どんなお仕事ですか?~

仕事は、難病の利用者さんの摘便(便を出してあげること)や、屋外歩行の訓練、リハビリの指導、夜間に発生する相談への対応、ご自分では管理が難しいかたの血圧などの測定、薬のセット、健康指導、それらに関する医師への報告書の提出など、医療行為を伴う多岐に渡ります。重篤な病に冒されておられるケースなどは、根本的な治癒を目指しているのではなく、利用者さんの様子を見て、痛みの緩和や症状の進行に寄り添いながら医師と連携して医療行為を行われているそうです。

訪問するための移動には意外にエネルギーを取られる

~1日の訪問数は?~

日によるそうですが、1日に4~6件程度の訪問をされるそうです。
1単位は30分で、2単位1時間での利用が多いそうです。お話をうかがうと、訪問看護の現場では、各ご家庭への「移動」が、看護師さんの仕事の効率や労力に大きな負担であることに気づかされます。訪問先への移動ルートは訪問看護ステーションで効率的に考えて決められているものの、仕事の道具を積んだバイクや自転車での移動には体力も必要です。雨が降った日などは、レインコートなどの着脱だけで時間と手間がかかります。玄関の狭い家では、玄関先で半分雨に打たれながらカッパの着脱をし、濡れたものを拭いたりする作業が発生して、晴れの日の三倍くらい労力がかかります。移動中、雨風がダイレクトに顔に当たると、心が折れるそうです。そんな中で訪問先に向かわれるには、かなり強い気持ちが必要だと感じます。

「どう過ごしたいか」という利用者の希望に重きが置かれる

~病院の看護師とのお仕事の違いは?~

病状の重篤なかたや余命いくばくもない利用者さんの訪問看護は、病院での看護とは違い、「これからどう過ごしたいかという希望に応えること」に重きが置かれています。忙しい看護スケジュールのなかで、利用者さんの「桜が見たい」という希望を叶えてあげられるよう、満開日に合わせて訪問時間を確保し外出に付き添われるなど、繊細に心を尽くしておられます。体の自由が利かなくなった方の希望には、「自宅の二階にあるお風呂にどうしても入りたい」など、家族だけでは実現が難しいものもあります。現場の看護師さんは、そのような難易度の高い希望にも様々な工夫で応えておられます。

人生の最後に寄り添う看護師

~がん末期の利用者さんとの過ごし方は?~

死期が近づいている利用者さんには、「最後にどこかに行きたい」「これがしたい」という大きな望みよりも「家族との日々を大切に過ごしたい」とか、「昔話に花を咲かせたい」といった希望を口にされることが多いそうです。特にガン末期の利用者さんたちは、痛みがあったり息苦しかったり、つらいことばかりが日々増えていくので、少しでも楽しい気分になれるよう、そのかたが一番輝いておられた時期のお話を語ってもらったりするそうです。家族関係が良かったかたばかりではなく、「家族にお礼が言いたい」「家族に謝りたい」などと打ち明ける方もおられ、こっそりそれをつなぐ役割も看護師さんが果たされています。現場の看護師さんは、そういう話を利用者から引き出してあげる、ということも訪問看護の重要な仕事であると意識されています。

家で過ごせる状況を作ってあげられることが喜び

~お仕事のやりがいは?~

病気が進行した利用者さんが「家で過ごす」ということは、実はとても大変なことだそうです。看護師さんは医師やヘルパーさんなどと連絡を取りながら、なんとか家で過ごせる状態を看護師の視点でコーディネートするには、かなりのご苦労があるようです。そのため、自宅で過ごせる状態を実現し、それを維持してさしあげること、それについて利用者さんから「よかった」と喜んでもらえることが、仕事における大きなやりがいとなっているようです。設備の導入などは、ケアマネージャーさんの職務領域と考えられがちですが、転倒防止のための家具配置など自宅の環境づくりなどには、症状をよくわかっている看護師の提案が重要なのだそうです。

看護師になって日が浅いかたは「自分にできることが増えていくと、利用者さんとの関係が深まり、それまで言ってくれなかった悩みを打ち明けてくださるので、利用者さんの本当の希望をかなえてあげることができる」と、自分の成長や変化を利用者さんと共有できる醍醐味を語られました。
ただし、利用者さんとの関係が深いだけに、亡くなられたときの悲しみは相当大きいそうで、精神的にも強さが求められる仕事だと感じます。

一人で判断を下すのはかなりのプレッシャー

~訪問看護の難しさは?~

一人での訪問は、病院と違い、そばに医師や多くの先輩がいるわけではありません。そのため、一人で的確に仕事を遂行するというプレッシャーは相当にあるようです。利用者さんの既往歴、症状の段階、どのような望みをお持ちか、にその場でスピーディーに応えねばなりません。先輩に判断を仰ぎたいといっても、動画撮影をするのは倫理的に憚られます。また自分が帰った後に起こりえることまで予測して、利用者さんに説明しなければならないのです。「現場の感じは、現場に立った人にしかわからなくて、それを言葉で説明するのは難しい」と経験を積まれた看護師さんも仰っておられ、限られた時間で的確に対応するプレッシャーはかなりのものだと感じます。

訪問看護はICTでより発展する分野

~仕事上、何か希望はないですか?~

利用者さんが使われる事業社は様々で、連絡を取り合うために、メールやファックスが利用されているのですが、お忙しい看護師さんにはそれが二度手間三度手間な煩雑な作業でもあります。ドクター・他の事業者・ケアマネさん・ご家族などとその利用者さんの情報を共有できるアプリがあれば、関係者すべてに喜ばれるのではないかと思われます。
また、現在は体温や血圧を測ったら、電子カルテに看護師さんが入力して記録をされますが、その時間節約のために、それが即座に電子カルテに記録されるようなものも求められています。

今回、お話をお聞きしたところ、看護師さんがまさに命の現場でひとりプレッシャーを感じながらお仕事をされていることを考えると、症状判別アプリみたいなものの必要性も感じます。専門家といえども知識量には限界があり、また、扱われる領域は非常に広いからです。「現在はスマフォ内に、これを見落としてないか、といったメモが出るようにしている」と個人で工夫をされている看護師さんもおられるので、症状を検索すると的確な処置の候補がいくつか出てくるようなものだと、速度感をもって調べられ仕事のスピードと効率も向上すると考えられます。

既にカルテやスケジュールは便利な電子ツールで管理しやすくなっているので、今の現場は昔の現場よりも恵まれているそうですが、時間に追われる仕事なので、その日の看護師の訪問先への移動を、効率的に配備するようなアプリがあったらよい、という意見も聞かれます。加えて、移動が多いお仕事なので、天候に左右されないような乗り物、ウェアなど関連商材についても、細かく見ていけば色々とニーズがありそうです。

後編では、そんな詳細なニーズについてうかがっています。

後編につづく。

インタビュー企画・分析:大槻美聡

(digmar編集部)