マーケティング心理学10選!知っていると役立つ心理学を紹介(後編)
先日、『マーケティング心理学5選!最低限知っておきたいマーケティングに使える心理学』を掲載しましたが、本記事はその続きの後編となります。
この記事では、知っていると役立ち、マーケティングに用いることができる心理学を10個ご紹介します。
目次
【知っていると役立つ】マーケティング心理学10選
マーケティングに携わる方にとって、知っておくと役立つ心理学は次の10個です。
- イケア効果
- カクテルパーティー効果
- クレショフ効果
- コンコルド効果(サンクコスト効果)
- ザイオンス効果
- 初頭効果
- ハロー効果
- プライミング効果
- プロスペクト理論
- 返報性の原理
それぞれについて詳しく解説します。
①イケア効果
イケア効果とは、自身の手で時間と労力を費やして作り上げたものに対して、その価値を本来の価値以上に高く感じる心理現象です。これは、イケアの組み立て家具を作り上げる際の経験から派生した概念で、アメリカのマイケル・ノートン氏、ダニエル・モション氏、ダン・アリエリー氏の3名がこの心理効果をイケア効果と名付けました。
イケアで販売されている家具の多くは、購入後に自分で組み立てる必要があります。完成品を購入したり、あるいは組み立てを依頼したりするよりも、自分で家具を組み立てるほうが時間と労力を要するはずです。
上記3名の実験では、被験者を「すでに組み立ててあった家具を点検するだけのグループ」と「自ら家具を組み立てるグループ」の2つに分け、それぞれのグループに家具の値付けを行ってもらいました。
すると、前者のグループよりも後者のグループのほうが、価格を63%高く設定する結果となりました。このように、人は自ら手作りした物を、より高く評価する傾向にあるのです。
参考:The IKEA Effect – Why people fall in love with their own ideas
イケア以外にも、例えば次のような商品・サービスにはイケア効果が働いていることがあります。
- 家庭菜園
- プラモデル
- ジグソーパズル
- キャンプ など
イケア効果を利用して、あえて顧客に自作してもらうことによって、自社製品のファンを作り、またリピート率向上につなげることも可能です。
②カクテルパーティー効果
カクテルパーティー効果とは、賑やかで騒がしい場所でも、自分が関心のある内容は自然と耳に入ってくる心理現象のことです。
カクテルパーティーとは、カクテルや軽食が提供される立食形式のパーティです。カクテルパーティーでは会話や音楽などによって騒がしくなることが一般的ですが、そのような状況でも興味のある情報だけは聞き取れることから「カクテルパーティー効果」と名付けられました。
カクテルパーティー効果は、視覚的な効果もあるため、マーケティングにも活用できます。例えば、広告のキャッチコピーで「肌にお悩みを持つ30代のあなた」「〇〇地区にお住まいのあなた」というように特定してアピールすれば、情報にあふれた社会の中でも「これは自分のことだ」とユーザーに関心を寄せてもらうことができます。
カクテルパーティー効果のコツは、特定のターゲットに絞り込んで、ピンポイントに訴求することです。「痩せたいあなた」ではなく「お腹の脂肪が気になって痩せたいと考えている40代のあなた」というようにより具体的にターゲットを絞り込むことで、カクテルパーティー効果が働くようになります。
③クレショフ効果
クレショフ効果とは、無関係な画像や動画などを連続して見たときに、それらに関連性や物語性を無意識に感じてしまう心理効果を指します。ソビエトの映画作家であるレフ・クレショフが初めて実証したことから、その名がつけられました。
例えば、無表情の男性の写真を2枚用意し、横にそれぞれ「夕食メニュー」「お葬式」とキャプションを添えます。同じ写真であるにもかかわらず、前者の男性は空腹を感じているように見え、後者の男性は悲しみを感じているように見えます。このように、関連のないものを勝手に関連づけてしまうのが、クレショフ効果の特徴です。
クレショフ効果は、マーケティングにも応用できます。最も典型的な例の一つが、ユニクロのCMで、さまざまな人種の人たちが写ったものです。このCMによって、ユニクロは「人種に関係なく、世界中の人が着られる服」というイメージを形成しています。
つまり、自社のターゲット層にとってイメージアップにつながるような人物を、広告やWebサイトの画像などに起用することで、クレショフ効果を利用した効果的なマーケティング施策を打つことが可能です。
④コンコルド効果(サンクコスト効果)
コンコルド効果とは、投資を継続することがさらなる損失を生むと理解しているにもかかわらず、それまでに費やしたお金や時間を惜しみ、投資を続けてしまう心理効果です。別名として「サンクコスト効果」とも呼ばれます。コンコルド効果は、先入観や評価などによって正当に判断できなくなる認知バイアスの一種です。
1970年頃、イギリスとフランスで超音波旅客機「コンコルド」の共同開発事業が行われていました。この事業が赤字になることは当初から明白でしたが、開発は中断されることなく続けられ、結果的に破綻してしまいました。このことが、コンコルド効果の名前の由来となっています。
コンコルド効果に陥らないためには、例えば自社事業で多額の投資をしているにもかかわらず収益性が見込めないと判明した場合、さらに投資をするのではなく、勇気を持って撤退の判断を下すことが重要です。
また、このコンコルド効果を利用して、次のようにマーケティングで活用されるケースもあります。
- クレーンゲーム機:
一向に中の商品を取れないにもかかわらず、それまで費やしたお金が無駄になってしまうのでやめられず続けてしまう - スマホの課金ゲーム:
現時点でそのゲームはプレイしていないものの、以前まで課金をたくさんしたために、アンインストールできない - ギャンブル:
すでに負けているにもかかわらず「あと◯◯円使えば勝てるかも」と考え、さらにお金を使ってしまう
こうした「もったいない」という感情を巧みに利用し、購買単価を上げるマーケティング手法が採用されています。
⑤ザイオンス効果
ザイオンス効果とは、特定の人や物事との接触を何度も繰り返すことで、その対象に好印象を抱くようになる心理効果です。日本では「単純接触効果」とも呼ばれます。アメリカの心理学者であるロバート・ザイオンスが1968年に発表した論文に由来しています。
ザイオンス効果の最も典型的な例が、テレビCMです。初めはまったく興味を持っていなかった商品やサービスでも、テレビCMで繰り返し視聴するうちに気づけば興味を持っていた、という経験があるのではないでしょうか。CMなどの広告には、こうした効果を狙って制作されているものがあるのです。
このように、ザイオンス効果はマーケティングにも活用できます。何度も同じ会社を訪れる営業活動は、ザイオンス効果を活用して顧客に好印象を与える方法のひとつです。さらに、次のような施策も、ザイオンス効果を活用した認知獲得の手法ともいえます。
- メールマガジン
- 企業のSNS活用
- リターゲティング広告
ただし、その対象の印象が悪い場合、繰り返し接触することで逆効果となる可能性もあります。特に営業活動を行う際には、相手からの評価を適切に判断し、必要に応じてアプローチ方法を変更するなど、工夫が必要です。
⑥初頭効果
初頭効果とは、最初に提示された情報に強く印象づけられる心理効果です。ポーランド出身の心理学者であるソロモン・アッシュが1946年に行った、印象形成の実験が由来となっています。
具体例としては、初対面の相手に対する印象が会ってわずか3秒で決まる、といわれていることなどが挙げられます。さらに、この最初の印象は後々にも強く影響を及ぼし続けることがあります。
初頭効果は、マーケティングにおいても有効活用されています。例えば、記事のタイトルにインパクトのある言葉を入れたり、ランディングページのメインビジュアルに引きのある写真を採用したりするなど、ユーザーが最初に見る部分に印象的な情報を入れることで、より自社が望む形で印象づけることができます。
⑦ハロー効果
ハロー効果とは、対象物を評価する際に目立つ特徴がある場合、その特徴が全体の評価に影響を与え、対象物へのイメージを歪めてしまう心理現象です。
「ハロー(halo)」には、キリスト教や天使などの背後を照らす光や、図上に描かれる光輪という意味があります。後光によって対象物の実態が影に覆われて見えづらくなることから、ハロー効果と名付けられました。
例えば、テレビで美男・美女を見た際に「性格がよさそう」「きっといい家柄なのだろう」などとイメージする方も多いかもしれません。しかし、家柄や本当の性格などは、テレビ出演時のような一面を見るだけで判断できないはずです。このように、ハロー効果は先入観などによる認知バイアスの一種といえます。
ハロー効果をマーケティングに応用すると、次のような施策が考えられます。
- 広告に有名人を起用する
- 説得力のある数値を提示する
- 専門家の監修を入れる
ただし、実態を遥かに超えた誇大宣伝をすると、それが明らかになった際に顧客からの信頼を失ってしまうことになります。ハロー効果をよい方向に働かせるには、誠実なアピールを心掛けることが大切です。
⑧プライミング効果
プライミング効果とは、先に受けた情報や刺激が後の行動に影響を及ぼす心理現象です。この効果は、事前に教えるという意味の「prime(プライム)」から名付けられました。
例えば、昼に外を歩いているときにラーメンの香りがして、それに影響されて夕食にラーメンを選ぶのは、まさにプライミング効果によるものです。先の刺激(ラーメンの香り)がプライムとなり、その後の行動(夕食にラーメンを選ぶ)に影響を及ぼしているのです。
プライミング効果は、マーケティングにも応用できます。その一例が広告です。「◯◯で寿司を食べよう」「△△旅館の温泉で気持ちのよい休日を」というように訴求する(刺激を与える)ことで、顧客に自社への来店を促すことができます。
また、商品に関するアンケートを実施することも、プライミング効果を活用できる方法の一つです。例えば、化粧品に関するアンケートを実施する際に「どんな自分になりたいですか?」と質問します。そうすることで、回答者は「キレイになりたい」という感情が呼び起こされ、その後の化粧品のプロモーションに対する抵抗が弱まる可能性があります。
⑨プロスペクト理論
プロスペクト理論とは、人は利益の獲得よりも損失の回避を重視する傾向にあるという意思決定理論です。この理論は、アメリカの心理学者ダニエル・カーネマンと、イスラエルの心理学者エイモス・トベルスキーによって発表された論文に由来しています。
プロスペクト理論では、利益を追求する場面では確実に利益を得ようとし、一方で損失を避ける場面では最大限に損失を回避しようとします。このとき、人は利益よりも損失をより大きく見積もる傾向があるのです。
例えば、投資において利益が出ることが確定している場面では、損失を回避するために、株式などを売却することがあります。反対に、ギャンブルで損失が出ている場面では、その損失を取り戻そうとさらにお金をつぎ込んでしまうことがあります。
プロスペクト理論は、次のようにマーケティングに応用できます。
- サブスクリプションサービスで「入会後の2カ月は無料」とうたい、顧客に確実な利得を提示する
- スーパーで「本日15時までタイムセールです!」と店内放送をして、今購入しないと損をするという印象を顧客に与える
- 無料カスタマーサポートを提供し、顧客の購入後のリスクを減らす
特に、損失を回避させる要素を強調したキャッチコピーやセールストークを使うことで、プロスペクト理論は大きな効果を発揮します。
⑩返報性の原理
返報性の原理とは、相手から親切や好意などを受けた際に、こちらもお返しをしなければという心理が働く現象です。
例えば、職場などでプレゼントをもらうと「自分もお返しに何か渡さなくては」と考えることも、返報性の原理が働いているケースといえます。このような場合、お返しをしないと罪悪感が生まれてしまうことがあります。
この返報性の原理は、次のようにマーケティングでも活用できます。
- スーパーやデパ地下の試食・試飲
- 化粧品の無料サンプルのプレゼント
- 丁寧な接客をする
このような「恩を与える」行動によって、顧客はそれに応える形で購入しようとします。
ただし、マーケティングに返報性の原理を利用する場合、無料で提供するものが高額になりすぎないように注意してください。もし過度に高額であると、顧客は「何か裏があるのではないか」と疑念を抱く可能性があります。
まとめ:心理学をマーケティングに活用しよう
心理学を利用して販売方法を工夫することで、売上向上の可能性が高まります。本記事と前編で紹介した心理学を活用して、顧客の深層心理に響くマーケティング施策にお役立て頂ければと思います。
(digmar編集部)