シート食材のパイオニアが仕掛けた「ベジート」の定着型マーケティング戦略
食の多様化やヘルスケアへの意識が高まる中、野菜のシート「ベジート」が注目を集めています。野菜を長期保存可能なシートに加工。災害に備えるローリングストックや食糧危機、肥満解消など、さまざまな“食まわりの課題”を解消する画期的な商品です。野菜シートという新しい商品カテゴリを、いかにして市場に定着させたのか? 株式会社アイル代表取締役の早田圭介氏にお話をうかがいました。
お話をうかがった方
株式会社アイル代表取締役
早田圭介 様
https://www.vegheet.jp/
長期保存可能な野菜シート「ベジート」が、発売からわずか4年で定着?
ベジートは100%植物性で、野菜と寒天のみを材料とするシート食材です。食品添加物・化学調味料不使用でアレルゲンフリー。1パックにレタス2.5個分の食物繊維が含まれます。巻く、混ぜる、飾るなど、レシピの幅が広く、子育て家庭を中心にヒット。長期保存可能なため、ローリングストックや食糧危機にも貢献できます。
コストコやダイソーをはじめ、フランス発のオーガニック・スーパーマーケット、ビオセボンでも取り扱われるなど、シェアを拡大。持続可能なビジネスモデルから、ベジートは海外を含め、さまざまなメディアや省庁からも注目される存在です。
各所から注目を集めている「ベジート」ですが、主なユーザー層はどのような方達なのでしょうか?
早田氏(以下、早田):まずは、子育て層に非常に喜ばれています。煮溶かすとジュレになるので、「離乳食作りが楽になりました」との声をいただいたり、子どもたちのキャラ弁に活用いただいています。
意外に多いのが高齢者です。年齢とともに噛む力が弱くなり、硬いものや生野菜を食べるのが難しくなります。温かいものや柔らかく煮たものが中心になる中で、「歯応えが感じられるものが食べたい」というニーズから、ベジートが喜ばれています。
クックパッドでも2021年7月以降に検索ニーズが伸びています。組み合わせ検索では「お弁当」や「離乳食」がランクインしています。クックパッドユーザーに受けているポイントをどうご覧になりますか。
早田:まずは、カラフルさ。次に、野菜であること。
お弁当のお悩みとして多いのが、マンネリ化と彩りです。「ベジート」は、お弁当で不足しがちな野菜をカバーできる上、カラフルでマンネリ打破も叶います。ユーザーのお弁当需要に対して、希望に応えられていることが、ウケているポイントではないでしょうか。
コロナ禍でお弁当の利用頻度も高まっています。リモートワークなどで通勤時間が減ったことにより、以前よりもお弁当に手間をかけられる人が増えました。社会の変化、ライフスタイルの変化によって、お弁当需要自体が伸びていることも一因かと思います。
シート状で長期保存可能な点も生活者に受けているポイントでしょうか?
早田:そうですね。「ベジート」は、コンパクトで場所を取らないため保存に向いています。当初は保存期間が2年だったものが、パッケージのリニューアル後は5年の保存が可能になりました。
市場とユーザー、共に受け入れられた理由とは?
新たな商品カテゴリが定着していくには、戦略と時間を要します。シート状の野菜というこれまでになかった商品「ベジート」は、いかにして市場とユーザーの双方に受け入れられたのでしょうか。
理由1 ソーシャルグッドなビジネスモデルに共感の輪
「ベジート」の開発背景について教えていただけますか。
早田:家業を引き継ぎ、モノづくりをワンランクアップしようと全国行脚をしていた際に、たまたまこの野菜シートに出会いました。熊本県にある海苔メーカーの一角で、野菜シートを製造しているのを見て、もう鳥肌が立ったんです。カラフルな海苔ができるってすごいなと。しかも、野菜の成分や食物繊維もしっかり含まれます。
一年のうち半分しか使われていない海苔の機械が、有明海一帯に3,000台ぐらいあります。その3,000台で野菜シートを作れば、大きなビジネスチャンスだと感じました。
野菜シートを作っていた海苔メーカーが民事再生になったため、当社で事業を引き継ぎ今に至ります。
事業を引き継ぎ、野菜シートを商品化していくにあたって、苦労した点はありましたか?
早田:実際に海苔の機械で、野菜シートを商品化しようと思ったら、思うようなものは作れなかったんです。まずおこなったのが食感の改良。当初は、紙を食べているような食感だったんですね。それを海苔に近い食感にするのが、最初に苦労した点ですね。
次は機械化、量産化の難しさです。
このビジネスは量産しないと成立しません。一番ベストな厚さや野菜の配合、味の良さ。それを機械化して、どうラインに乗せていくか。衛生管理の徹底も必要です。
乾燥時間を8時間から15分に大幅短縮するなど、ドラスティックに機械の構造を変え、量産が可能に。価格を抑え安定した品質のものを生産できるようになりました。
「ベジート」の原料となる野菜は、規格外のものを使用しているんですね。
早田:野菜は生産量の約30%が、収穫されずに規格外として廃棄されています。使われない野菜をすべて「ベジート」にできれば、長期保存が可能になり、食糧危機にも備えることができる。穀類は年間収穫量の約30%が在庫になり、備蓄もされていますが、野菜に関しては皆無なんです。野菜は天候に左右されるものですから、豊作の年にシート化できれば、災害や食糧不足の際に非常に役に立つ食品になります。
加えて、全国の農家は非常に苦しい状況です。平均年齢が68歳と高齢化してますし、深刻な担い手不足です。農家の方、製造する工場のスタッフ、購入いただくお客様といった、全てのステークホルダーが幸せになるようなビジネスを「ベジート」は目指しています。
関係者からはどのような反応がありますか。
早田:農家の皆さんからは、非常に喜ばれています。私たちは規格外の野菜を結構いい値段で仕入れるので、「本当にその値段で買ってくれるのか」という声をいただきますね。
主要な販路である大創産業とは、商談を重ねました。規格外野菜や、農家がおかれている状況についてご理解いただき、「ぜひ協力しましょう。とにかく世の中に出しましょう」と、卸業者を含めて協力体制を作ってくれました。
理由2 ユーザー訴求に戦略あり。機能性訴求とブランディング
「ベジート」は商品のパッケージが価格帯によって異なるのですね。ブランディングで力を入れたポイントなどはありますか。
早田:ご指摘の通り、取り扱う店舗によってパッケージを変えています。
ビオセボンで販売している商品は、オーガニック野菜を原料にしており海外を意識したデザインに。オーガニックというキーワードに関心の高い方やトレンドに敏感な方に向けて、ハイブランド感のあるパッケージになっています。
一方、ダイソーのパッケージは、パッと見で「野菜だな」と認識でき、かわいらしい雰囲気になっています。ターゲットである、子育て中の女性や若い世代の女性にヒアリングしてデザインしました。ダイソーで販売している「ベジート」は、お弁当がターゲット。ふりかけ売り場を指定して、ニーズと合致するような売り場戦略を立てています。
早田:「ベジート」のブランディングにあたっては、デザインから商品名、イメージ写真に使用する料理まで、女性のチームが中心となって進めています。
災害の備え、食糧危機への一手になるシート食材を世界に
気候変動による自然災害の増加、コロナ禍での輸出入の混乱、ウクライナ・ショックによる食品価格高騰。
食糧不足への危機感が高まる中、早田氏は、長期保存可能な「ベジート」が危機を救う一手になると言います。
早田:「ベジート」は長期保存が可能なので、災害に備える「ローリングストック」にも向いています。野菜をシート状にすることで、穀類と同じように保存が可能に。食物繊維やビタミンも含有されます。
現在備蓄可能な災害食は、90%が炭水化物です。炭水化物だけでは、食物繊維が不足し、便秘を引き起こします。実際、東日本大震災や阪神淡路大震災でも、便秘で体調を崩す方が非常に多くいました。災害時に「野菜が食べたい」という声が33%に上ったというアンケート結果も出ています。
「ベジート」はローリングストック向けの商品としても注目いただき、岡山県内のイオンでテスト販売をおこなっています。さらに福岡市では、食生活改善推進員(ヘルスメイト)がベジートを使った災害時の料理を考案してくれています。
ウクライナ・ショックで「食糧の奪い合い」という状況が、現実のものとなりました。これから世界人口が100億人規模に膨らんでいくと、食糧危機は深刻になっていくでしょう。主食と野菜のストック、そしてタンパク質は大豆から。豊作のエリアの野菜をシート化するだけで、人類の食料確保に繋がるのです。
ローリングストックから食糧危機まで、幅広くカバーする「ベジート」ですが、今後構想されていることはありますか。
早田:シート食材のパイオニアとして、野菜に限らずさまざまな商品を開発していきたいですね。シート状の食品は、海外でもライスペーパーやトルティーヤなど馴染みのある食品です。
現在浸透しているアイテムは、炭水化物が中心ですが、私たちはさまざまな食材のシート化を試みています。野菜やフルーツ、調味料。昆布やかつおなどの出汁も、ヨーロッパの人から需要があります。コショウや唐辛子といったスパイスも、準備を進めています。
“ストックできる野菜”という存在は、世界的に見ても非常に貴重です。マーケットでの認知が拡大したら、シート化の技術をオープンソース化していきたいですね。当社だけじゃなく、多くの人と手を取り合って世界に広め、食糧危機に備えていけたらと思います。
商品力に加え、巧みなマーケティング戦略と持続可能なビジネスモデルによって、発売から4年で市場に定着した「ベジート」。ローリングストックや食糧危機解消の一手として、シート食材の市場は今後広がっていきそうです。
※この記事はクックパッド株式会社が運営するFoodClipからの転載記事です。