「b8ta(ベータ)」の新店は食に特化。食業界に売ることを主目的としないが必要な理由
2021年12月末、b8ta Japanが米国本社から独立。商標権やソフトウェアなどのライセンスを取得し、日本独自に事業を展開すると発表しました。“売ることを主目的としない店”として新宿、有楽町、渋谷、越谷レイクタウンに出店し、近年は食品企業の出品も増えている中での大きな転機。新生b8taが考えるこれからの小売についてうかがいました。
お話をうかがった方
b8ta Japan株式会社
COO
羽田 大樹氏
日本上陸から2年 食関連ブランドの取り扱いが増加
ーーb8taの国内店舗はオープンから2年が経ちます。当初のサービス内容から変化した部分はありますか?
羽田 大樹氏(以下、羽田):「b8ta Tokyo – Yurakucho」と「b8ta Tokyo – Shinjuku Marui」の2店舗が同時にオープンしたのが、2020年8月。「体験型店舗がシリコンバレーから初上陸」という形で注目いただき、オープン当初の出品アイテムはガジェットや家電が多い印象でした。一方で、「お客さまに発見と体験をお届けする」のが私たちのミッションですから、この2年はその想いに立ち返りながら、カテゴリが偏り過ぎないように運営し、幅を広げていきました。アパレルやコスメ、伝統工芸品など、さまざまな商品をご紹介して、皆さんに新たな発見や、既存価値の再発見に繋がるものが提供できたと感じています。
食関連の企業様からも非常にたくさんのご要望をいただいています。それを踏まえて、2021年11月にオープンした「b8ta Tokyo – Shibuya」では、水回りの設備を用意し、飲食店の営業許可を取得して、飲食の提供ができる体制を整えました。カテゴリの広がりに合わせて、お店も変革しましたね。
ーーお客さまの層に変化はありますか?
羽田:当初は新しいものやガジェットに興味がある、いわゆるアーリーアダプターの方々がメインでしたが、近年は認知度も徐々に上がり、ファミリーやカップルなど少しずつ客層が広がっています。例えば、b8ta Tokyo – Shinjuku Maruiではマルイにショッピングにきた若年層、「b8ta Tokyo – Yurakucho」であれば平日は会社員、休日は銀座へ遊びにきたファミリーやカップルなど、立地の違いから客層はそれぞれカラーが異なります。
今春も越谷レイクタウンで新店のオープンを控えていて、新たなお客さまにお会いできるのを楽しみにしています。
「b8ta Koshigaya Laketown」では「食」がひとつの柱に
ーー初の郊外店で、さらに裾野が広がりそうですね。新しい店舗は、食に関連する設備がさらに充実しているとうかがいました。
羽田:昨今、体験型店舗が増えている中での差別化を考えると、提供できる体験の“幅と奥行き”が重要です。「b8ta Koshigaya Laketown」ではこれまでの「匂いを嗅いで、触って、味わって」を体験するところから、もう一歩踏み込んだ「食」をひとつの柱として打ち出しています。冷蔵庫やシンクなども整え、キッチン設備があり、試食やキッチン家電を用いた簡単な実演も対応可能です。
実は、これまで食の関連でご出品のご要望をいただいても、設備やオペレーションの都合でどうしても対応しきれない部分がありました。特にキッチン家電をもう一歩踏み込んで体験いただける場所が必要と考え、改善をした結果、今回の店舗構成に繋がりました。
ーー食の関連企業からのご要望は、どんどん増えている状況でしょうか?
羽田:増えていますね。例えばD2CのEC限定商品でも、リサーチやテスト販売は不可欠です。ブランディングの観点から、スーパーやデパート以外のスペースを求めているブランドは少なくありません。そうしたブランドや企業がb8taを指名してくださるのはありがたいですね。
現在も「b8ta Tokyo – Shibuya」でミツカンの関連会社ZENBともお取り組みをしています。同ブランドはEC限定のD2Cブランドで、週末限定でZENBヌードルの試食を含めたイベントを実施。「食べたことがない」「知っていて興味はあったけど、買ったことがない」というお客さまに実際に味わっていただき、ポジティブな反応をいただきました。その場での購買にもつながっています。完全食など直接口にするものは、お客さまにコンセプトや商品の概要が伝わりやすく、反応もいいです。
リアルな声とデータを収集 出品企業も新たな仮説を発見
ーーオープン当初、日本の店舗は接客でコミュニケーションをしっかり取れるよう工夫されているとうかがいました。現在はいかがでしょう?
羽田:体験型ストアならではの良さでもあるので、今もブランドストーリーや原料、原料の産地などを大切にして、お客さまにお伝えするスタイルは変えていません。私たちが「テスター」と呼ぶ接客スタッフとの対話は重要な顧客体験の場になると考えています。「購入しないと気まずい」環境がないので、お客さまからは、「肩の力を抜いて楽しめる」とのお声もいただいてます。
「b8ta」と出品企業双方に売上ノルマはありません。店舗在庫を持って販売する商品もありますが、その売上は100%ブランドにお返ししています。また、出品した成果を売上のみで評価される出品企業は少ない様子ですね。
ーー出品企業が成果として求めているものはなんでしょう?
羽田:人流のある場所でプロモーションができて、販売チャネルが増えるというのがひとつ。あとはリテールサービスとしてのデータ、お客様の声のフィードバックです。b8taではお客さまとの会話や反応を記録して出品企業様にお伝えしているため、オンラインでは手に入らない、“生の声”がわかることに価値を感じていただいています。
ーー実際に商品開発に役立った事例を教えていただけますか?
羽田:たくさんあるのですが、以前、ある企業が女性をターゲットにした抹茶フィナンシェをb8taに出品したところ、店舗での体験実績をみると男性の割合が多いことが判明しました。テスターがヒアリングを重ねたところ、主にお土産やギフト用に購入されていて、商品のブラッシュアップに繋がりました。こうしたフィードバックによって、実際の需要のズレやプロダクトに対する新たな視点などが見え、次のステップに進むことができます。
ーー“定量データが見えてきたら、仮説を定性的に検証していく”ことが、繰り返しできる素晴らしい仕組みですね。
羽田:ありがとうございます。ほかにも、とある商品をb8taに出品してみたら、予測が外れてメインターゲット層のお客様が思ったより購入してくれなかったこともありました。しかし店頭では確実に売れていくので、どのようなお客さまが購入しているかを探って試行錯誤しながらデータを収集しました。こういった動きは、リアルタイムに店頭で向き合いながらデータを集めることができるb8taならではの強みだと思います。
ーーこれまでのマーケティングリサーチというと、デプスインタビューは「特殊な環境で欲しいデータを定める」形ですが、b8taはより街の中の声を拾える印象があります。ユーザーの嗜好が多角的になる中、こうした生活者とメーカーの繋ぎ方は大切ですよね。
羽田:はい。先ほどの事例の通り、仮説を検証していたら新たな仮説が発見できるのも、b8taの良さなんですよね。
ーー食品業界は費用対効果であったり、求める指標がまだアップデートしきれていないがゆえに、そうしたb8taの魅力が受け止めきれていないところがありそうです。定量的な要素では伝えきれないというか、もっと先進的な部分でワクワクできるものだと感じます。
羽田:食品は単価が低いものが多く、ガジェットに比べると投資収益率を厳しく見られることも少なくありません。ご出品いただいた際の売上だけを指標にするのではなく、露出としての価値やブランディング、試食の体験の質をトータルで考えて魅力を感じていただけると嬉しいです。
ーーブランドや商品のリピーターやファンを増やすには、継続的な広告やパッケージのイシューとは違う、お客さまとのコミュニケーションが必要ですよね。大手食品メーカーもD2Cをはじめるなど、食品業界でもそのあたりの価値はこれから大きくなっていきそうです。
羽田:そうですね。これまでの実績ですと、ニチレイの「ごはんのミライ」やグリコの「SUNAO」など、食品関連の企業にもテストマーケティングの場としてご利用いただいています。
これからはフードテック領域であったり、調理家電を活用したイベントができたら、食品業界を一層盛り上げられるのではと考えています。まだアイデアの段階ですが、フードテック展のようなものができたら面白いですよね。
ーーぜひ、開催してほしいです。代替食品やフードテックを活用した商品はどんどん新しいものが出ていますが、まだ生活者に届いていないものも多くあります。いろんな方が実際に手にとって、食べている様子を見てみたいです。
新生b8taは店舗拡大を経てアジアへ
ーー新しい小売の形がどんどん進化を遂げていくのが楽しみです。これからの小売についてはどのように捉えていらっしゃいますか?
羽田:大きな流れとしてEC化は止まらないと考えていますが、その中で小売が持つべき役割はまだ正解がなく、業態やロケーションによっても違ってくると考えています。全ての店が“売ることを主目的としない店”になるとは思っておらず、現状で苦戦している業界、店舗、商品に関しては、なにかしらの転換や付加価値を考えねばならないと思います。
b8taとしては、人流のある場所で体験型店舗のポリシーをもって、どのようにb8taの空間を活用してテスター、お客さまが織りなす付加価値を高めていくかが重要になってきます。そうした時に、デジタルと繋がってどのようにデータや顧客体験を提供するかも考えねばなりません。今注目されている“メディアとしての店舗の役割”を担いつつ、SNSやライブコマースなどの発信地になるような取り組みをして、価値を高めていきたいとも考えています。
ーー新生b8taとして、既存の価値に加えて、デジタルとの連携でさらなる価値を生み出されるのですね。
羽田:実現していくのはパワーが必要ですが、テストを重ねて磨き上げていきたいですね。まずは、日本でライセンスを取得しておりますので、日本向けにソフトウェアのアップデートしていく予定です。
ーーアジアにも進出されるという話もありますが、今後の出店予定をお聞かせください。
羽田:今後も絞ったロケーションで出店していくのは変わりません。今まで、有楽町、新宿、渋谷、越谷レイクタウンと続いたように、ロケーションが変わっていくのをイメージしていただければと思います。加えて、期間限定のポップアップストア形式の展示も検討中です。実際に昨年2021年5月には、福岡の3拠点でテスト的にポップアップ形式の展開をおこない、成功を収めました。ロケーションによって得られるデータが異なってくることから、出品企業に大変喜んでいただけました。こういった形で、常設店舗の拡大とポップアップ展開などを積み重ねて、アジア進出へ繋げていきたいですね。
また、店舗だけでなく、b8taのソフトウェアの部分、接客などのノウハウをパッケージとして売り出していくことも画策しています。売ることを目的とする店舗から体験型店舗へのシフトが見られる中で、売ることを主目的としない店舗のノウハウへの需要っていうのはある程度あるんじゃないかと。我々が実店舗を運営している中で培ったものをサービス化して、実店舗と並ぶもうひとつの柱にしていきたいです。
ーーありがとうございました。
※この記事はクックパッド株式会社が運営するFoodClipからの転載記事です。
(digmar編集部)