定性インタビュー『聞き方のコツ 2』

前回は、マーケティング・リサーチの質的インタビュー(定性調査)における「モデレーター」の役割をご紹介しました。
今回は「聞き方」について、もう少し考察していきたいと思います。(前回の内容を確認される方はこちら)

聞き方へのアプローチ

インタビューの難しさを体験されている皆様は充分お分かりだと思うのですが、得たい情報を引き出すためには「何を聞くか」「どう聞くか」は、きわめて重要です。得たい情報を引き出すためのアプローチは「聞かれた方はどんな風に質問をとらえ、どのように頭を動かすだろう」と想像することから始まります。これは、質問の構成を考え、インタビューフローを作る企画者の役割です。

企画者は、「得たい情報」が発話されやすい道のりを頭の中でいくつもシミュレーションして、最適な方法を選択します。いくつも聞き方をシミュレーションし、最適な方法を選択していくのですから、それなりの知識や経験が必要になることは言うまでもありません。

質問に応じた回答しか出ないのが、リサーチの難しいところで、このシミュレーションを怠りますと、的確な情報が得られず、何度も言葉を変えて聞き直す状況に陥ります。聞き直すことができる分、アンケートの失敗より救いがありますが、モデレーターが気を利かせて質問の仕方を変えることを期待して任せてしまってはいけません。それなりの準備がないとうまくいかないこともありますし、質問する側にも、される側にも、負担もかけてしまいます。また、聞き直しは、時間に余裕がある場合に限られます。聞きたいことがたくさんあったりして、聞き直しが充分にできないケースもあるので、「この聞き方で的確な発話が引き出せるか」は充分に想像しながらアプローチしたいものです。

聞きたいことをそのまま質問してもダメな場合がある

「知りたいことを一生懸命に説明したのに、ありきたりの意見しか出てこない」と悩まれている方からご相談を受けたことがあります。お話を聞くと「聞きたいことをそのまま聞いている」ことが、ありきたりな回答に終始させてしまっている原因だとわかりました。
我々が得たい情報には「その冷蔵庫の情報はどこでご覧になったのかしら?」などとダイレクトな質問への回答として得られるものと、そうでないものがあります。「自分たちでインタビューをしたけど、有益な情報が得られない」とお聞きするケースの多くは、この区分を心得ておられず「知りたいことをダイレクトに質問している」ということに起因していると感じられます。

建前しか出ない、また、合理化して答えられてしまうことが予想されるようなケースでは、まずは、「ダイレクトに聞いちゃいけない」と意識することが肝心なのです。

インタビューを受ける立場で考えてみましょう。「この冷蔵庫の情報、どこで見た?」と聞かれたときは、「たしか○○でした」と場所や情報源となったメディアの名前を答えようと考えます。いくつかのパターンには分かれますが得ようとするのは「場所やメディアの名前を答える」という個人差の少ない情報なので、ダイレクトに聞いて問題ありません。

では、収入に見合わないような極めて高価な冷蔵庫を買ったとき「なぜ、そんな高い冷蔵庫をお買いになったの?」と質問された場合はいかがでしょうか。回答には、その人の価値観や考え方、個人の事情など様々な要素が絡んでくるパーソナルな問題意識が潜んでいます。考えてもいなかったことについて「理由」を答えることは、かなりの負担を強いますし、さらに言語化までするのは、発言者にはかなり難解な作業です。こういう時は「機能が充実しているから」など、一般的で楽に答えられる回答を選んでしまいます。これが、「ありきたりの回答」になってしまう原因です。

購買理由に「おいしいから」と回答され、そのままで終わってしまう例ほど極端でなくても、似たようなケースはよく起こります。答えやすいことを答えている本人には悪気はなく、それが答えだと本人も思っているので、本当なのかを見分けるのは困難です。バックルームで「はっきりしないなあ」と観察しつつも、真実を確認できず終わってしまうことになり、いつまでもモヤモヤが残ります。真実に迫ろうとするなら、「本当は、コミュニケーションメッセージのチョッとした部分にハートを鷲掴みにされた人」が、ついつい「高いけど機能が充実しているから」などと答えたくなる、ということを予想しておかねばならないのです。

まとめ

きちんと聞けば意識の深い部分に迫れたのに失敗しているインタビューを見ると「直接聞くことができること」と「質問意図を悟られないほうが真実に迫れること」の判別は意外に難しいのかもしれない、と感じます。聞き方で失敗している、とお感じになるなら、聞き方を選択する際に、まずはこの判別をしっかり意識することをお勧めしたいです。

(弊社常務執行役員 大槻 美聡)