連載コラム「アンケート作成のいろは」vol.2

前回に引き続き、”アンケート作成のいろは”について、「その言葉はアンケートにふさわしいですか?」をテーマにお届けします。

回答者が「答えにくい」という声をあげる手段がなければ、どんな変なアンケートであっても、最後まで回答され、それに沿った結果が独り歩きしてしまう、という話を前回書きました。「変なアンケート」になりがちな原因の一つとして、今回は「アンケートの中で使われる言葉」について考察してみたいと思います。

その表現に違和感はありませんか?

リサーチ業界に就職した私が、当時最初に違和感を覚えたのは「目にするアンケートの中の文章や選択肢が、自分の感覚に合っていない」ことでした。たとえば、5段階評価などの「非常に良い」、「やや良い」というスケール。「普段、『非常に』、とか『やや』とか言います?」などと、先輩にその違和感を口にしました。中学生のとき英語でoftenを「しばしば」と訳せ、と言われて、「そんな言葉、私たち使わないよね」と違和感を覚えるのと同じ感覚でした。

こんな表現は使わないな、と思うと、客先で天真爛漫に「これはおじさんたちの言葉で、若い世代にはピンとこないです」と異を唱え、上司を震撼させていたようです。そんな時、上司からは「お客さんは時系列で、ずっとこの表現を使ってきておられるだろ? 表現を変えると回答も何かしら影響を受けるから、一回作ると変えるのは難しいんだ」と説明されました。これには一理あり「時系列で実施することになる最初のアンケートを任されたら、最初が肝心。これは大変だ。」と緊張したのを記憶しています。

厳密には区切りにくい人間の態度を等間隔を想定して分けている心理尺度では、どこまで行っても無理はありますが、誰が見ても違和感のないものに近づける努力はしたいものです。最上級の誉め言葉も「超かわいい」「激ヤバ」など、時代とともに変遷します。アンケートの言葉はある程度普遍的であってほしいですが、古くさくなって使わなくなった言葉にこだわることはないと考えます。時系列データの時は、小サンプルで新しい指標のテストをされてから変更されたらよいでしょう。

さて、違和感を持たれる可能性を排除しておくべきなのは、なぜでしょうか。それは、ひとえに、回答者の集中を保つためです。表現に違和感を覚えて、回答に集中できないケースを改めて考えてみましょう。

*質問文の係り結びがおかしい
*一般的でない新しい言葉が解説なしに記載されている
*普段あまり使わない言葉や言い回しが使われている
*外来語の表記が一般的ではない 
*よくわからない略語が出てくる
*恣意的な質問文や選択肢が使われている
*文章が必要以上に丁寧だったり、くだけていたりする
 など。
書かれたものを見ているだけでは、違和感に気づきにくいので、「回答者の立場に立ち、口に出して読んでみる」といったチェックを自分に課すとよいでしょう。

性別や家族についての考え方が変化している昨今では、性別や家族構成などの選択肢に気をつかうケースも増えています。アンケート内の表現にいったんひっかかると、回答者はストレスを感じ、他の質問の回答もおろそかになったりします。アンケート作成者は、精度の高いデータを得るためにも、世の中のムードや表現に敏感でいなければならないのです。

誰に向けて言葉を選んでいますか?

さて、みなさんがアンケートを作るときは、回答者にどんな人を想定して「言葉」を選んでいるでしょうか。
「ターゲット」を意識しない商品やサービスが、ピンボケしたものになってしまうのと同様、「ターゲット」を意識した言葉を使っていないアンケートもよいものにはなりません。

昨年、「DX」の意味が分からないのに「知らない」と言えず、知っているふりをして、あてずっぽうに答えているシーンを面白おかしく切り取ったCMがありましたが、みなさんにも、そんな経験があるのではないでしょうか。
知らないことを正直に「知らない」というのは、意外に勇気がいることです。そもそもWebアンケートでは、「その言葉わからないから教えて」と聞くわけにもいきません。
知らない言葉があっても、回答者は想像しながら適当に答えるしかないわけですから、そんなアンケートの結果は怖くて使えませんね。まずは「回答者にわかる言葉を使う」ことが、回答者への最低限の気遣いであると知りましょう。

余談ですが、私のリサーチャーとしての経験は大阪で始まったのですが、東京の会場でアンケートに答えてもらったとき、「東京の人は知らない言葉があっても、大阪の人のように簡単には知らないと言ってくれない」と感じました。あくまでも感覚的なものですが、さらっと「知らない」と答える傾向は大阪でのほうが強い気がしました。いずれにしても私たちは「知らない」とは簡単に答えてくれない人たちを相手にしていることを意識してアンケートを作らなければいけないのだな、と思ったものです。

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前回、「自分がよく知っている分野だからといて、そのレベルを回答者に求めるのは大間違い」と書きましたが、リサーチ会社を使わずに作られたアンケートには、そのチェックがなされていないものがよく見られます。専門分野の言葉に毎日接している人は、それを特殊な言葉だと思わず、当然みんなも知っている言葉だと勘違いしやすいのです。たとえば、「ニアウォーター」などは、ブームの初期のころは、どんなものか注釈なしには伝わりませんでした。

アンケートに使う言葉吟味するときには、厳密には以下のようなチェックポイントを課すとよいでしょう。
・意図したことが伝わる言葉か
・他にもっと簡単でふさわしい言葉がないか
・その言葉に他の意味がないか
・他に意味がある言葉がある場合、質問中で意図した意味を伝えられるか
 など。
このような言葉の吟味に努めた結果、回収率が上がり、より正確なデータを得ることにつながったという例もあります。

また、言葉は、調査対象者の語彙レベルを意識して選択しなければなりません。一般的な高齢者の方に、最新のテクノロジー用語が通用しにくいこと、中学生には政治経済などの用語が理解されにくいのと同様です。「この人達に、この言葉は通じるのかな」と考えること、さらに「誰からも一義に理解されるか」を考慮することが重要です。人によって違う意味に捉える可能性のある言葉は、調査の結果を大きく変えてしまうので、使うべきではないでしょう。
経験上、アンケートに使う言葉は、「地元の公立中学に通う二年生」を意識して選ぶようにするとよいと思います。(専門職や特定層へのアンケートの場合は、この限りではありません)

あいまいな言葉を使っていませんか?

巷で見るアンケートに「よく使う」「ときどき使う」「たまに使う」「あまり使わない」といった言葉で使用頻度を聞く質問を見かけます。商品やサービスを提供する企業にとって、顧客を知るための重要指標であるにもかかわらず、ずいぶんざっくりした選択肢です。


このような選択肢が用意されている場合、週に一回使う人は、いったいどこに○をつけるのでしょう。「ときどき使う」と答えた人の中に、「月に一回」の人や、「週に一回」の人が混在するのは防げません。より正確に顧客情報を得るためには「月に5回以上」「月に3~4回くらい」「月に2回くらい」「月に一回未満」などとぶれにくい選択肢を使われた方が良いでしょう。


他にも、「品質が良い」「シンプルでよい」「かわいい」などの、あとで使う時何を意味しているのかわからないマジック・ワードにも注意が必要かもしれませんね。

つづく

関西学院大学経営戦略研究科 非常勤講師
 弊社常務執行役員 大槻 美聡