タイパとは?重視される背景や工夫、食品業界での事例を解説

タイパとは

昨今、Z世代を中心に「タイパ」という言葉が流行しています。若年層や日常で多忙を極める層をターゲットに商品・サービスを販売する企業にとって、このタイパという概念は避けて通れません。

この記事では、タイパの意味や重視される背景、さらにはタイパと密接に関連する食品業界を例に挙げながら、タイパについて解説します。タイパについて知りたい、食品業界でタイパに対するマーケティング施策を検討している企業は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

タイパとは

タイパとは「タイムパフォーマンス」の略で、時間対効果を意味します。具体的には、物事にかけた時間に対して得られる成果のことです。Z世代を中心に普及した概念で、現代人は以前にも増して時間帯効果を追求する傾向が高まってきていると考えられます。

タイパという言葉は、三省堂の「今年の新語2022」で大賞を獲得したことで、さらに注目を集めるようになりました。特に、Z世代を中心とした若年層向けの商品開発や販売などのマーケティングにおいて、「タイパ」という概念はもはや無視できない存在となっています。

タイパを重視する理由は「効率的に情報収集したい」「無駄を省きたい」

タイパを重視する理由は「効率的に情報収集したい」「無駄を省きたい」

タイパを重視する背景を探ることで、Z世代を含む若年層の心理や、大切にしている価値観を理解することができます。

セイコー時間白書2023(セイコーグループ株式会社)」によると、タイパを重視する理由で最も多かったのは「効率よく情報を得たいから」で57.4%でした。次いで「無駄なことに時間を割きたくないから」が57.3%と続く結果となりました。

この調査から、効率化や無駄を省いて生まれた時間を、有意義に過ごしたいと考える方が多いことがわかります。

タイパとコスパの違い

タイパとよく似た言葉に「コスパ」があります。コスパは「コストパフォーマンス」の略で、費用対効果のことを指します。支払ったコスト(費用)に対する効果や満足度のことです。低コストで高い満足度を得られた際に「コスパが高い」と表現します。

タイパはかけた時間に対して、コスパは費用に対しての効果や満足度を指します。異なる次元で成果を測っている点がタイパとコスパの違いです。

なお、タイパはコスパから派生した概念であるとされています。

タイパが重視される背景

昨今、タイパという概念が急速に普及し、企業でもタイパを意識した商品の開発が進んでいます。若年層を中心に、なぜ時間に対する満足度を高めようとする動きが広がっているのか、タイパが重視される背景について解説します。

デジタル化社会が進んでいるため

タイパが重視される背景には、デジタル化の発展により、一人ひとりがアクセスできる情報が膨大になったことが関係していると考えられます。

ひと昔前とは異なり、スマートフォンやSNSの普及により、大量の情報や娯楽に簡単にアクセスできるようになり、情報過多の社会が形成されました。そのため、現代の人々は、情報を適切に取捨選択するスキルが求められるようになっています。

限られた時間の中で多くの情報やコンテンツに触れるために、タイパという言葉が生まれたのでしょう。例えば、動画の倍速視聴も、限られた時間で膨大な動画コンテンツを効率的に視聴しようとする考えから生まれた機能だと推測できます。

時間やお金に余裕がなくなっているため

以前に比べて、時間やお金に対する余裕がなくなっていることも、タイパという概念が普及した理由の一つと考えられます。

現代では、女性の社会進出が進み、共働きが一般的となる中で、男女ともに家事や育児に割ける時間が減少しています。仕事が1日の多くを占める中で、家事や育児も効率よくこなそうとする心理が生まれるのは当然でしょう。

また、経済的な不況の影響もあり、「短時間でより多くの成果を上げるべき」という価値観が広まったことも、タイパが重視される背景の一因と考えられます。

成果が認められにくい社会で無駄を嫌うようになったため

不況の時代において、ひと昔前に比べて労働に対する成果(≒給料)が認められにくくなりました。

というのも、平均給与はここ30年間でほとんど上がっていないにもかかわらず、物価は右肩上がりで上昇しています。

国税庁の「民間給与実態統計調査」や厚生労働省の「民間給与実態統計調査は」によると、1990年は約425万円であるのに対し、2023年は458万円で、やや伸びている程度です。一方、消費者物価指数は30年前から1割以上上昇しており、平均給与の伸び率を上回っており、現在は好景気とは言えません。

その結果「給与が上がらないのに、時間をかけて頑張る必要がない」という価値観が普及し、また人手不足による1人あたりの労働量の増加から、短時間で生産性を向上させようとする動きが出てきたと考えられます。

また、成果が認められにくい社会になったことで「無駄なことは極力避けたい」「成果につながらないことに時間を割きたくない」「自分のために時間を使いたい」という考え方がより広がったことも要因といえそうです。

タイパ向上のためにされていることは?

これまでタイパについて紹介してきましたが、実際にタイパを向上させるためにはどのような取り組みが行われているのでしょうか?ここでは、タイパ向上のための主な取り組みを4つご紹介します。

動画のながら視聴・倍速視聴

昨今、ドラマや映画が有料で見放題になる「動画配信サービス」が一般的に利用されるようになりました。動画配信サービスを単に再生して見るだけでなく、倍速視聴や動画を視聴しながらほかの作業をする、いわゆる「ながら見」が、タイパ向上の取り組みとしてよく行われています。

ネットショップ・ネットスーパーの活用

買い物にかかる時間を省き、他の活動に時間を有効活用するために、ネットショップやネットスーパーを利用する人が増えています。今ではスマートフォン1台で食材や日用品、家具なども手に入る時代となり、わざわざ外出することなく、自宅で買い物を完結させることができます。

弁当や総菜、冷凍食品、ミールキットなどを利用

~世代間でタイパ意識は異なる?~タイムパフォーマンスに関する意識調査」※によると、タイパを意識して行っていることとして「ながら動画視聴」などのメディアコンテンツに次いで、食事関連の取り組みが多く見られました。

特に、30~50代のミドル層では、男女ともに「弁当・惣菜などの出来合いのものの利用」や「冷凍食品・ミールキットを利用する」といった、家事の時短を目的とした商品購入が上位に挙げられています。

実際に、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店頭でも、さまざまなメーカーが工夫を凝らした冷凍食品や惣菜、弁当などが多く並んでいます。

※日本インフォメーション(株)調べ

タイパを重視した料理の方法

前述の通り、タイパ向上の取り組みとして、食事に関する工夫が多いことがわかります。実際に、料理は家事の中でも特に時間がかかるため、タイパ向上を図る上で避けて通れない要素です。

そこで次からは、タイパを重視した料理の方法を3つ紹介します。

SNSを活用する

タイパ向上のために、SNSは欠かせないツールです。TikTokやYouTubeでは「やる気1%で作れる料理」や「タイパ飯」など、短時間でおいしい料理を作るためのコンテンツが数多く投稿されています。

必ずしも時間をかけて料理をすることが正しいのではなく、多忙な現代社会では、効率よく料理を作ることも重要です。SNSには、工夫を凝らしたメニューが豊富に投稿されており、タイパ向上に大いに役立つでしょう。

調べ物にまとめサイトを活用する

先述したセイコー時間白書2023」によると、タイパを高めるための行動として「調べ物をするときにまとめサイトを活用する」と回答した方が61.6%にのぼり、6割以上がまとめサイトを積極的に利用していることがわかります。

特に料理に関しては、「クックパッド」や「DELISH KITCHEN」など、ユーザーやサイト運営者がレシピを投稿するサイトが人気です。これらのサイトでは無料でレシピを入手できるだけでなく、時短メニューも多く紹介されており、タイパ向上に欠かせないツールとなっています。

電子レンジを活用する

コンロを使って料理をすると、調理器具が増えて洗い物が多くなりがちです。そこで活用したいのが、電子レンジです。電子レンジを使えば、コンロを使わずに調理することが可能です。

肉や魚、野菜の下処理はもちろん、麻婆豆腐やサバの味噌煮、豚バラ大根など、コンロで調理が必要と思われるメニューも、電子レンジだけで作ることができます。

これらの電子レンジを活用したレシピは、TikTokやYouTubeなどのSNSやレシピサイトで多く紹介されており、日常生活で効果的に取り入れられます。

時短で栄養をとる

タイパ向上のために「短時間で多くの栄養をとる」という考えも広まっています。その一環として注目されているのが「完全栄養食」です。

例えば、日清食品の「完全メシ」は、33種類の栄養素とおいしさのバランスを追求した製品です。また「BASE FOOD」は、1食で1日に必要な栄養素の約1/3を摂取できる製品です。

肉や魚、野菜など栄養豊富な食材を使った料理も素晴らしいですが、調理にはどうしても時間がかかってしまいます。そこで、こうした完全栄養食を日々の食事に取り入れるのもおすすめです。

タイパ向上を意識して開発した商品・サービス~食品を事例に~

タイパ向上を重視する取り組みが食事関連で特に多いことから、食品業界ではタイパを意識した商品やサービスの開発が進んでいます。

そこで次からは、タイパ向上を意識して開発された商品やサービスをいくつか紹介します。

効率よく栄養を摂取できる「サイクルミー」

サイクルミー(Cycle.me)とは、人の体内時計に着目し、朝・昼・夜それぞれの時間帯に必要な栄養素を取り入れることを目的とした食品ブランドです。「時間栄養学」に基づいて開発されており「効率よく栄養をとりたい」というタイパ志向に応える商品を展開しています。

例えば、朝にはタンパク質が20グラム摂取できるグレープ味のプロテイン飲料、日中にはストレスがかかるデスクワークに最適なGABA入りのピスタチオクッキーなどが販売されています。時間帯ごとに最適な栄養をとれるように設計されている点が、サイクルミーの特徴です。

サイクルミーはセブン-イレブンとも提携して全国で販売されており、注目を集めている食品ブランドの1つです。

ご飯とおかずがセットになった「ワンプレート冷凍食品」

「ワンプレート冷凍食品」とは、ごはんとおかずが1つのプレートでセットになっている冷凍食品です。従来の冷凍食品はおかずのみのものが一般的でしたが、昨今ではごはんもセットになったワンプレートタイプが注目されています。

このワンプレート冷凍食品が注目される理由には、「おかずとごはんを別々に温める手間を省ける」「皿洗いの手間が減る」「一度に多くの栄養を摂取できる」といった点が挙げられます。

ワンプレート冷凍食品であれば、別途ごはんを用意する必要がなく、電子レンジで温めるだけなので洗い物も不要です。さらに、一度に多くの栄養を摂れる商品もあり、タイパを重視する人々に広く支持されています。

スーパー並みの食品を取り揃える新しいコンビニ「SIPストア」

2024年2月29日、株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、タイパを重視する消費者のニーズに応えるため、セブン‐イレブン松戸常盤平駅前店を新業態の店舗「SIPストア」としてリニューアルオープンしました。

SIPストアは、スーパーマーケットのように肉や野菜、冷凍食品などを豊富に取り揃えたコンビニエンスストアです。従来のコンビニエンスストアと比べて、広い売り場面積と豊富な品揃えが特徴で、コンビニとスーパーの中間的な役割を果たしています。

セブン&アイ・ホールディングスがSIPストアを開店した背景には、タイパ志向の消費者が増えたことが関係しています。「共働きで料理にかける時間がない」「料理に時間をかけたくない」といった消費者の変化から、SIPストアという新しい業態が生まれました。 SIPストアは2024年8月時点で1店舗のみですが、世間から受け入れられていくようになれば、今後は他社のコンビニエンスストアも含め、同業態の店舗が増えていくかもしれません 。

電子レンジで麺もパスタソースも一度に調理できる「パキット」

永谷園が開発した「パキット」は、電子レンジで麺とパスタソースを一度に調理できる便利な商品です。商品名にもあるように、パスタをパキッと2つに割って袋に入れ、水を加えて電子レンジで加熱するだけで、簡単にパスタ料理が完成します。

パキットの開発背景には、市販のパスタソースを使う際に、麺を別茹でしなければならない煩わしさと、調理器具の洗い物が増えるという不便さがありました。この問題に永谷園は着目し、パスタとソースを一度に調理できる解決策として「パキット」を開発しました。

パキットは、パスタソースの中に麺を入れるためコンロを使う必要がなく、一人前のパスタ料理を手軽に作ることができます。この手軽さから、特に一人暮らしでタイパ志向の高い層に人気の商品です。

弊社、株式会社マーケティング・リサーチ・サービスでは、永谷園様にご協力いただき、パキットに関するID-POSを利用した商品の実態調査(ID-POSリサーチ)を行いました。購入理由や満足度については以下の記事で紹介しているので、あわせて参考にしてみてください。

関連記事:
弊社社員の想いが商品に!~麺を茹でられるパスタソース「パキット(永谷園)」ID-POSリサーチで購入実態を分析~

タイパを実現する方法

日常生活でちょっとした工夫をすることで、簡単にタイパを実現できます。そこで、特に料理や食事関係で、タイパを向上させる方法を3つ紹介します。

日頃から時短レシピをストックする

タイパ向上を実現するためには、日頃から、忙しい日常に役立つメニューをストックしておくことをおすすめします。

たとえば、TikTokやYouTubeにはブックマークできる機能があり、後から動画を見返せます。また、サイトにあるレシピもお気に入り登録したり、マイページに登録すればブックマークしたりすることも可能です。

気になるレシピがあれば日頃からブックマークやお気に入り登録する癖をつけておくと、忙しい日常でも、満足度の高い料理を手軽に作れる環境を整えることができます。

便利な収納・調理器具を活用して料理にかける時間を減らす

タイパを向上させるためには、収納や調理器具にも注目することが重要です。昨今では、タイパ向上に役立つ商品が多く開発されています。

例えば、300円ショップの「3COINS」では、片手で振るだけで素早く米研ぎと水切りができる「米洗いストレーナー」や、押し出すだけで簡単に野菜をカットできる「野菜スティックカッター」など、タイパ向上に寄与するアイテムを豊富に取り揃えています。

また、ベビー用品を展開するコンビ株式会社は、離乳食初期から完了期までに必要な食器がすべて揃い、重ねて収納できる「はじめて離乳食 かさなる食器 収納じょーず P」を開発しました。 もちろん、冷凍食品やミールキットなど、便利なタイパ食品を購入することも重要です。ただ、食品だけでなく収納や保存にも目を向け、料理の準備や調理にかける時間を最小限に抑えることもタイパ向上には欠かせません。

調理家電を利用して料理の手間や時間を削減する

タイパ向上のためには、電子レンジも含む料理家電に目を向けることも不可欠です。昨今では、短時間でおいしい料理を作れる調理家電が多く販売されています。

例えば、焼く・蒸す・煮るといったさまざまな調理が可能で、調理後はそのままお皿としても使える「IHクッキングプレート」や、プロ並みの仕上がりで自動調理ができる「自動調理鍋」などがあります。

現代では、コンロでの調理だけが料理ではありません。こうした便利な調理家電を活用することで、短時間で高品質な料理を作ることが可能です。

まとめ:タイパを理解することは企業に欠かせない

今回は「タイパ」について、関連の深い食品業界を例に挙げながら解説しました。

タイパを追求する傾向は、デジタルネイティブであるZ世代を中心に高まっており、マーケティング施策として着目する企業も増えています。
食品業界以外にも、カラオケでサビだけ歌える「サビカラ」や1冊10分で読める書籍要約サービスなど、様々な業界でタイパ向上を実現する商品やサービスが開発されています。

若年層を中心にタイパという概念が急速に普及している昨今において、企業もタイパへの理解が欠かせません。
マーケティング施策や新商品開発を検討する際の市場調査など、何かご不明点や弊社でご支援できることがございましたら、ぜひともお問い合わせください。

                                                                 (digmar編集部)