「いつもの参照価格が崩れる瞬間」の心理を因子分析で考察!思った以上に高い買い物を許容してしまうケースについてのアンケート

リミッター消費アンケート

私は普段、音楽を聴くプレイヤーなどについて「これ位まで」と購買の目安になる価格を決めています。ところが、先日、とても良い感じでおしゃれな雰囲気のレトロなレコードプレーヤーをたまたま目にして「20%OFF」というPOPに背中を押され、普段の目安を上回る価格で買ってしまいました。

このように、「自分が持っている普段の予算よりもつい多く」お金を使ってしまったりしたこと、皆さんもあるのではないでしょうか?

個人消費の勢いが下がり、財布の紐も固くなっている現在、消費者に「思った以上のコストを支払ってもらう」のは、至難の業。普段より高額を支払ってもらう様々な仕掛けや仕組みを考えるためにも、どのような人に、どういった状況で、どのような心理で、そうした消費行動が起こっているのかを解き明かしたいと思い、今回は「思った以上に高い買い物を許容してしまうケース」についてリサーチを行いました。

思った以上にお金を使ってしまう消費の実例

まず、パーソナルインタビューで、思っていたより高額を支払ったケースを聞いたところ、いくつかヒントとなる事象を発見することができました。

ケース① 俳優のライブでパーカーを購入(60代女性)

最初は「限定品だから」「その俳優に関心がなくなっても着ることができる」と購入理由を説明。ところが掘り下げていくと、娘もその俳優が好きで「母娘で共通の話ができることが、普段より高額の支払いをした動機」になっていることが分かった。

ケース② 憧れのインフルエンサーと同じカチューシャを購入(60代女性)

娘からねだられていた時は、そんな高いもの、と思って相手にしていなかった母。買い物中に出くわしたインフルエンサーがそのカチューシャを着けていて、一緒にいた家族のかたもとても素敵な方々でキラキラと輝いて見えた。

わざわざ素通りしてきたアクセサリー店に戻って買うことになったことについては、「娘があのカチューシャを着けることで、私も一緒にあの素敵な家族みたいになれる気がした」と動機が語られた。(娘にねだられていたカチューシャを買い、同じ店で自分用の髪留めも購入。)

ケース③ ご当地限定グッズ(30代男性)

サウナ好きの中では憧れの地方のサウナに遠征し、そのサウナのTシャツを購入。「期待通りの体験ができたので購入した」と言っていたが、実は「東京でこれを着ていたら、この人サウナに詳しい人だな。と、分かる人には分かる」ということが高額を支払った動機であったことが判明。

「手に入れる」という所有の喜びもさることながら、「身に着けることにより他者からの評価を期待する」「購買にまつわるストーリーを他者とシェアする」など、心の奥底では「他者とのコミュニケーションの手段」を求めていることがわかります。自分のためだけでなく、他人と仲良くするために高額の支払いを行っているようですね。

思った以上にお金を使ってしまう消費は、どのような要因で行われるのか

「衝動買い」や「自己表現手段」など購買動機として予め準備していた項目に、パーソナルインタビューで抽出した「他人とのコミュニケーションのために」という概念も入れてアンケート票を作り、量的にそういうケースの発生率を確認することにしました。アンケートでは、普段の買い物を考えると思った以上にお金を使ってしまうことを「やってしまったなと思う買い物」と表現しました。

設問1

【やってしまったなと思う買い物/サービスの利用】をする理由は?(回答はそれぞれ1つずつ)

上位には「ストレス解消」など「衝動買い」と近い要因や、「旅行やイベントをより楽しむ」「その時にしか買えない」「品質が高いものを手に入れる」といった「買う」「所有する」喜びが多く選ばれています。

「他者とのコミュニケーションのため」と回答した人はそれほど多くはないことから、パッと出てこない・あまり自分でも意識されていない概念だとわかりますが、これらの項目で「他人とのコミュニケーション」という因子が形成され、思った以上の高額支払い許容動機として効いてくることがわかりました。

因子分析のアウトプットから、各因子を次のように定義しました

  • 因子1 【自己顕示】  自慢したり、人よりもいいものを手に入れるため
  • 因子2 【自己褒賞】  勉強や仕事の褒美として
  • 因子3 【オタク気質】 推しを応援したり、アイテムコンプリートのため
  • 因子4 【理想追及】  理想に近づく、理想のものを入手するため
  • 因子5 【コミュニケーション】 共通の話題で盛り上がる、コミュニケーションのきっかけを作るため
因子分析

「推しを応援するため」は一見すると「他人のため」の購買と考えがちですが、上記を見ると「他者とのコミュニケーション」要素である因子5とは別であることがわかります。因子3【オタク気質】も因子1・2・4と同様「自分のため」であって、他人と仲良くするための要素である因子5【コミュニケーション】だけが異質に思えます。

思った以上にお金を使ってしまう人の特徴は?

思った以上にお金を使ってしまう人は、どのような人なのか?因子分析で抽出された因子得点を用いて、クラスター分析を行い、思った以上にお金を使ってしまう・消費をした人を、いくつかのグループ(クラスター)に分類しました。

クラスター分析結果

説明のつきやすい5クラスターでみると、因子5 【コミュニケーション】がプラスに影響しているクラスターでは、他のそれぞれの因子もプラスに影響していることが確認できます。[クラスター1]は「マニアックな趣味で他者とのコミュニケーションをとるためにお金を使ってしまう」人たち、[クラスター2]は、他者とのコミュニケーションは意識するものの、自分のためにお金を使ってしまう人たちであると思われます。

ついでに整理すると、ボリュームとして人数の多い[クラスター]3では、どの因子の影響もあまり見られない中で「他者とのコミュニケーション」の影響がわずかに見られます。[クラスター4]は、「自分へのご褒美」や「ストレス解消」のためだけに高い支払いをしてしまう人です。[クラスター5]は、5因子ともマイナスで、[クラスター4]のように自分へのご褒美やストレス解消が高いお金を払ってしまう動機となることがなさそうな人たちです。

まとめ

「いつもはこれ位だと決めているのに、それ以上の高い金額を思わず支払ってしまった」(やってしまった、という消費)という現象には、「他者とのコミュニケーション手段になる」という一見とらえにくい因子が影響を及ぼしていることがわかりました。この因子の影響を受けている人たちは、「他者とのコミュニケーションになる」というお題目に弱いと言えそうです。自分の高額の支払いを「他者とのコミュニケーション手段」として潜在的に許容しているからこそ、人に自慢できそうなマニアックなものを求めてみたり、自分の理想や快楽を追求してみたりすると解釈できます。

「少し高いかなと思われつつも買ってもらえる」ことを期待するならば、購買後に彼・彼女らが他者とどのようなコミュニケーションをするのかを先回りして考えて、購買の現場で刺激をする必要がありそうです。

※本記事では、調査結果の一部をご紹介しています。
調査結果の詳細をご覧になりたい場合は、ぜひ下記のお問い合わせリンクよりご連絡くださいませ。

<その他のアンケート調査項目>

・性別
・年代
・職業
・予算を超えた買い物の経験(各SA)
・予算を超えた買い物をした時期(SA)
・1年以内で最も高かった予算オーバーの買い物の金額(SA)
・予算を超えた買い物をしてしまった理由(各SA)
・予算を超えた買い物のジャンル(各SA)
・予算を超えた買い物のきっかけ(MA)
・誰のための買い物で予算を超えることがあるか(MA)
・買い物意識(各SA)
・1ヶ月に使える予算(SA)

【調査概要】
<Step1>
調査手法:パーソナルインタビュー
有効回答数:3名
対象者条件:
・最近1年以内に自分自身で“想定していた金額よりも高い金額を払って”の購買・サービス消費をした方
・予算の倍に近い金額以上を使った方(難しい場合には1.5倍程度の方も対象とする)
調査期間:2023年6月27日、7月4日
調査主体:弊社(株式会社マーケティング・リサーチ・サービス)

<Step2>
調査手法:インターネットリサーチ
本調査 有効回収数:1037名
本調査対象者条件:
・一都三県在住の20~69歳の男女/未既婚不問(未婚無職は除く)から
 以下のような購買行動はいずれも行わない人(「やってしまった」という買い物をしない人)は
調査の対象者から除いた
 *冷静だったら買わなかったと思う買い物・サービス消費をすることがある
  *気持ちが高ぶって買い物・サービス消費をすることがある
  *欲しい気持ちが抑えきれず、予算以上の買い物・サービスをすることがある
調査期間:2023年10月25日~11月6日
調査主体:弊社(株式会社マーケティング・リサーチ・サービス)

(digmar編集部)