新商品を各社が続々発売!多様化が進むノンアルコール飲料市場

コロナ禍で消費者動向が大きく変化した中でも、成長を続けた飲料ジャンルが、ノンアルコール飲料です。その成長の背景には、コロナ禍に限らず社会的な潮流に伴うライフスタイルや健康意識の変化などがあると考えられます。この記事では、拡大を続けるノンアルコール飲料市場のいまと、消費者のニーズや動向について説明します。

拡大を続けるノンアルコール飲料市場

ノンアルコール飲料の市場規模は、ここ数年右肩上がりです。飲食店による酒類の提供自粛などを受けて、コロナ禍でビール類の売り上げが大幅に落ち込む一方、ノンアルコール飲料市場は拡大を続けました。「ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態・意識調査」(サントリービール株式会社)によると、 2020年の段階で、「アルコール度数0.00%のビールテイスト飲料や チューハイ・カクテルテイスト飲料」としてのノンアルコール飲料の売り上げは、前年比103%の2,313万ケース。2015年から6年連続で伸長し続けて過去最大の市場規模にまで成長しました。

最近でも新たな商品が続々登場

そうした中、新たなノンアルコール飲料の商品も続々と登場しています。日本コカ・コーラ社が、2022年2月に、近年屈指のヒット商品である「檸檬堂」に加えて、ノンアルコールバージョンとして「よわない檸檬堂」の発売を開始しました。ノンアルコールでありながら「お酒らしい味わい」が出せるようこだわった、と開発担当者が語るこの商品は、30〜40代の世代を主な顧客に設定したとのこと。とくに、仕事や家事、健康面などの理由から、「あえてお酒を飲まない」選択をとられる人をターゲットとしているそうです。

ノンアルコール3.0

飲酒年齢が高齢化、若年層では「飲まない人」が増えている

厚生労働省による「国民健康栄養調査」によると、飲酒習慣のある人の年代別の割合は、2009年と2019年とを比較すると、高齢者で増加している一方、若年層では減少しています。これは、2010年台までの生活でアルコールをたしなむことを習慣とする、いわゆる飲酒人口がそのまま高齢化した、といった状況だと分析できます。飲酒を習慣にしてきた人たちが、年齢を重ねてもそのまま飲酒を続けている一方で、若年層では「適度に楽しむ」「必ずしも飲むとはかぎらない」「あえて飲まない」といった、多様な選択肢をもったアルコールとの付き合い方をする人も増えていると予想されます。

適切な飲酒は、いまや社会的な要請にもなりつつあります。2022年1月6日にキリンビール、アサヒビール、サントリービール、サッポロビールの大手4社が事業方針説明会を開催し、「ビールの再成長」を掲げました。このとき、適正飲酒に対する取り組みについても併せて力説しました。国際連合によるSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、飲酒事故や健康障害といった、アルコールが引き起こすさまざまな問題への対応が、世界的に求められています。日本企業もこれに沿った動きを余儀なくされていることが、背景のひとつと考えられます。

新たなアルコールとの付き合い方「スマートドリンキング®」

例えばアサヒビールは、新たなアルコールとの付き合い方として「スマートドリンキング®(スマドリ)」を提唱。お酒を飲む人も飲まない人も、それぞれの体質や気分、シーンに合わせた、適切なお酒との付き合い方、飲み方の多様性を提案しています。同社では、20〜60代が分布する国内人口約8000万人のうち、半数の約4000万人は「お酒を飲まない・飲めない人」と推計。この層に向けたアプローチ手段を模索し、新たな市場の開拓につなげたい狙いが伺えます。

さらに同社は、株式会社電通デジタルと共同で、新たにスマドリ株式会社を設立。「お酒を飲まない・飲めない」消費者に焦点を当てたマーケティングやコミュニケーションの拡大に向けて、注力する動きを見せています。

若者層に広がる「あえて飲まない選択」

海外では、ミレニアル世代やZ世代を中心に、心身の健康のために、あえてお酒を飲まない選択をする「ソーバーキュリアス」という考え方が広まりつつあります。「ソーバーキュリアス」とは、シラフ、酒に酔っていないという意味の「ソーバー(sobar)」と、興味深い、好奇心旺盛な、という意味の「キュリアス(curious)」を合わせた造語。若い世代では、健康を害するリスクのあるお酒を、あえて選ばない、という考え方が一般的になりつつあるのです。

これらの動向をふまえ、アサヒ飲料では、炭酸水ブランドの「ウィルキンソン」に新たなシリーズとして「#sober」を展開。ソーバーキュリアスをシリーズとして取り入れ、20〜30代を中心とした、普段炭酸水を飲まないユーザーに向けて、商品を提案していきたい考えです。

ウェルネスの選択肢としてのノンアルコール

近年、ライフスタイルとしてサスティナブルなブランドやヴィーガンな食生活を取り入れる人が、若者を中心に増えています。また、マインドフルネスの流行とともに心身の健康を追求する「ウェルネス」の考え方も広まる傾向にあります。こうした健康志向の高まりは、ノンアルコール飲料とは相性もよく、若者のアルコールとの付き合い方にも影響を与えていることがうかがえます。こうした意識の変化によって、飲み方に多様な選択肢を生むノンアルコール飲料のニーズが高まり、さまざまな商品が開発につながっていると言えるでしょう。

ノンアルコール飲料の変遷

ノンアルコールビールの登場

このように、ノンアルコール飲料は社会のさまざまな要請に呼応する形で、その市場規模を成長させてきました。そもそもノンアルコール飲料がはじめて注目されるきっかけとなったのは、2003年に実施された道路交通法の改正です。その改正で、飲酒運転への罰則が強化されました。これによってノンアルコール飲料の需要が高まったのです。

その後、さらに2007年の改正で、飲酒運転への罰則が強化され、2009年4月にキリンビールが、日本で初めての「アルコールが0.00%ノンアルコールビール」である『キリンフリー』を発売します。各社もこれに追随する形で「アルコール0.00%飲料」に参入しました。

「微アルコール」という新たな選択肢

そして2021年、アサヒビールは、アルコール分0.5%のビールテイスト飲料「ビアリー」を発売。これにより、「微アルコール」という新たな市場が誕生します。一般的なビールに比べて圧倒的に低いアルコール分でありながら、ノンアルコールではない、というバランス感が決め手となり、同社のビールテイスト飲料の2021年前期の売り上げが、約20%アップしました。

健康を意識したさまざまな「ゼロ」商品が登場

また、アルコール分がゼロ、またはゼロに近いノンアルコール飲料ですが、アルコールだけではなくて、カロリーや糖質、プリン体がゼロというように、ほかのさまざまな成分も抑えて「ゼロ」にしている商品が多く存在します。ほかにも、機能性の表示を行っていたり、「特保」指定を受けたりといった、健康への働きかけをかけあわせた商品も販売されています。今や、「飲み」の場に向けても、消費者の健康意識の高まりに合わせた、商品の開発が行われているのです。

多様化するノンアルコール飲料

これまで、ノンアルコール飲料といえば、ビールテイストが一般的でした。しかし、近年では、梅酒やサワー、カクテルなど、さまざまな味わいのノンアルコール飲料が登場し、バリエーションも充実してきています。

イギリス発のノンアルコールカクテル「モクテル」

「モクテル」は、真似た、似せたという意味の「mock(モック)」と「coocktail(カクテル)」を合わせた造語で、ノンアルコールカクテルのことを指します。モクテルは、イギリスで誕生したとされており、海外で注目を集めるようになりました。。日本では、最近になって、日本でもモクテルの専門店が登場。旬のフルーツやさまざまなシロップを使い、ジュースとは違った、カクテルのような味わいが楽しめるとされています。モクテルを意識した清涼飲料ブランドも登場しており、今後ますます注目されることが予想されます。

アメリカで注目を集めるノンアルコールワイン

アメリカでは、ノンアルコールワインへの注目が集まっています。ノンアルコールワインブームは、ヨーロッパからはじまり、アメリカへもトレンドの波が来ているようです。米ビール研究所の調査では、2020年度のアメリカでのノンアルコールワインの消費伸び率は、36.8%となっており、他のノンアルコール飲料を大きく上回りました。こうした世界的なブームだけでなく、日本でも、サントリーワインインターナショナルは、ノンアルコールワインシリーズ「ノンアルでワインの休日」を発売しています。

オルタナティブアルコール

アルコールとの付き合い方が多様化してきた、という視点では、オルタナティブアルコールという、新しいジャンルへの人気も高まりつつあります。オルタナティブという言葉の通り、新興系の小規模メーカーによってつくられるアルコール飲料で、近年人気になっているクラフトビールやクラフトジンなどが代表例です。独自のストーリーやオンリーワンの魅力をもつお酒をファッションのように楽しみ、独特の味わいや世界観を楽しむというスタイル・お酒との付き合い方にオルタナティブアルコールはマッチしているようです。

今後も需要拡大が見込まれるノンアルコール飲料

ノンアルコール飲料の実例と、注目される背景についてご紹介してきました。なぜノンアルコール飲料が注目されるのか。その背景には、コロナ禍によるライフスタイルの変化、健康志向への高まりなど、特に若い年齢層において、アルコールとの付き合い方の多様化が進んだ、ということがあるでしょう。その結果ノンアルコール飲料市場は成熟し、味わいにも機能にも多彩なバリエーションを揃えています。こうした動きは今後も続くことが予想され、引き続きノンアルコール飲料市場では、新しく消費者を惹きつける「飲み方」の提案とそれに応じた商品の提供が求められると考えられます。

(digmar編集部)