デザイン思考とは?
~5つのプロセスと事例を紹介~

デザイン思考は、海外の多くの国々で導入されています。「デザイン思考」(Design Thinking)という言葉だけでも、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。日本でも浸透しつつありますが、その概念はどのようなものなのかを理解している人は多くはないようで、その言葉からデザイナー職の仕事領域だと思い込んでいる人もいるようです。

そこで、今回は「デザイン思考」についてご説明します。読者の皆様に「デザイン思考」がより身近な存在になって頂ければと考えております。最初におことわりしますが、デザイン思考にデザインという言葉が付いていますが、必ずしもデザインのセンスが必要ということではなく、デザイナーだけのための思考法というわけでもありません。

デザイン思考の概念

デザイン思考は、英語ではデザイン・シンキング(Design Thinking)と呼ばれています。アメリカの大手デザインコンサルティングファームであるIDEOの共同創業者で、スタンフォード大学のd.school(スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所)を設立したことで知られるデビッド・ケリー教授や、同じくIDEOの共同創業者のティムブラウンらが広めたと言っても過言ではないかと思います。

デザイン思考とは、デザイナーがデザインする際に用いる思考方法をビジネスやイノベーションに応用する(アプローチ)という思考法です。過去の既成概念や枠組みに捕らわれることなく、自由に発想するデザイナーの思考法、そして何度でもデザインスケッチを書き直すプロセスを真似、ビジネスにおける課題解決に役立てることができると考えたわけです。

デザイン思考が導入される背景

高度経済成長期においては良い商品を売れば売れるという時代でした。そんなプロダクトアウトの時代から市場が成熟するにつれ、様々商品が出されるようになりました。そして、人々も多様化した活動するようになり、昨今ではSNSなどの普及にますます多様化し、従来の製品開発の方法ではユーザーのニーズに対応が難しくなってきたと思われます。また、従来型のマーケティングリサーチでは、新しい製品やサービスが生まれにくいという傾向が見られるようになったことも一つの要因です。

そのような背景の中で、人間中心のアイデアや思考から解決方法を導き出すデザイン思考が注目されていると考えられます。

デザイン思考のプロセス (5つのステップ)

では、デザイン思考のプロセスは実際にどのような内容なのかをわかりやすく説明します。

デザイン思考を基軸として教育を行なっているd.schoolでは、「デザイン思考」を実践する際には、以下5つのプロセスを踏んでいくことを提唱しています。

共感(ユーザーを理解する)

デザイン思考の根幹には「ユーザー中心」の考えがあります。ユーザーの気持ちや価値観を共感するためにはインタビュー手法や観察法(エスノグラフィー)を用いて行われることが多いです。特に、観察法(エスノグラフィー)は、自分では意識していない潜在的なニーズを発見することに対して効果的です。

課題定義(課題点を発見する)

「共感」フェーズから得た情報をどのようなニーズがあるかという視点でまとめ上げ、そこから課題を定義(明確化)するということになります。課題の設定にあたっては、誰でもが解きたくなるような、誰もが興味を持てるような課題に設定すると良いでしょう。例えば「Covid-19のワクチンをすすんで接種するような仕組み、施策はどんなことが考えられるだろうか」などが良い例だと思われます。

発想 (アイデアを発想する)

課題を定義し、そのニーズを解決するような課題点に対して創造力を働かせてアイデアを出し合います。基本的にはチームで進めることが前提となっています。グループダイナミクスを発揮しながら、アイディアづくりを行います。単に問題解決をするということではなく、課題定義を設定して進めることがデザイン思考の真髄と言えます。数多くのアイディアを集中的に出すことも特徴と言えます。

プロトタイプ(アイデアを形にする)

「アイデア」を基にダーティープロトタイプを作ります。ダーティーとは粗悪という意味合いで、完成度は求めず、とにかく時間をかけずに、ユーザーの立場になって考えながら形にするが重要です。画用紙で作ることもあれば、絵で表現するなどスタイルは特に問いません。視覚化を行いその意味を伝える・表現するということが大切なのです。形にすることでチームの意識レベルが合いやすくなり、チームメンバー以外の人に対しても伝わりやすくなります。

検証・テスト(アイディアを評価する・テストする)

プロトタイプを用いてユーザーにテストします。ここでもユーザーと同じ目線で見る(共感)ことが重要で、以下3要素の視点から検証・テストします。

  • 技術的実現性:現在、近い将来に実現可能な技術であるかどうか。
  • 経済的実現性:コスト的に実現、存続可能であるか。利益をあげられるか。
  • 有用性:人間の潜在的な欲求を捉えており、ポジティブな感情をもたらすか。人に対して役に立つものなのか。

改善点が発見された場合はプロトタイプの修正を行い、場合によっては「発想」に立ち返り再度プロトタイプを作り直し、精度を高めていきます。

デザイン思考の特徴

この5つのプロセスをまとめると以下のようになります。

POINT

  • 人間中心であること(共感や問題など、常にユーザー視点でプロセスを進める)
  • 共創であること(立場関係なくグループワークで進める)
  • 形にする(素早くプロトタイプを作る)
  • 柔軟性(いつでも修正できるようにする)

デザイン思考を実施してみる(事例)

ここでは先述した「5つのステップ」について、ここでは理解しやすいように、事例を用いて説明します。

今回は、よく無くしてしまう「傘」を事例としてデザイン思考を紐解いていきたいと思います。

関東学院大学の教授で、デザイン思考の教育を行なっている佐々牧雄教授に事例を紹介していただきました。以下は、学生に対して行なったワークショップの概要になります。

事例:共感(ユーザーを理解する)

傘にまつわる人々の体験に対するヒアリングや傘利用者の観察を行います。様々な体験のヒアリングや観察により、次のフェーズである「課題定義」につなげていきます。ヒアリングや観察により以下のようなことが出てきました。

  • アルバイト先で、自分の傘を探そうとした、同じ傘が10本ありどれが自分の傘だかわからない、運試しに1本選んで持ち帰った。正解かどうかはわからない。
  • 雨の日に電車で出掛けた、傘を電車の手すりにかけた。途中で寝てしまい下車予定の駅で、慌てて起き、電車から飛び降りる。手には傘はなかった。
  • ご飯を食べて店を出る時に、傘立てには1本も傘がない。「名前を書かなければ、とるんかーい」と関西弁で思わず叫んだ。

事例:課題定義(課題点を発見する)

このようなヒアリングや観察結果はできる限り収集します。そして、そこからどんな課題に設定するかのディスカッションをします。ここでは、「傘をなくす割合を半減させるには」と言う課題に設定しました。設定した課題は、みんなが解きたくなる課題に設定することがコツです。

事例:発想(アイデアを発想する)

ポストイットやフォーマットを利用して、アイディアを発想します。アイディア発想にはアレックス・オズボーンのブレインストーミングの4つのルールなどを参考にしながら進めます。4つのルールとは、「批判禁止」「自由奔放なアイディアを歓迎」「アイデァの質より量を重視」「他人のアイディアを自分のアイディアと結合する」などです(原文は英語ですので翻訳は様々です)。

事例:プロトタイプ(アイデアを形にする)

「アイデア」を基にダーティープロトタイプを作ります。様々なユニークなアイディアが出ました。

「傘に大きな穴をあけ、必要な時にポケットに入れてあるビニール被せて使用する」「盗まれることを前提に、傘にスポンサーをつける」などです。

このように雑な模型を作ることで、素早くテストすることができます。

事例:検証・テスト(アイデアを評価する・テストする)

プロトタイプを用いてユーザーにテストします。プロトタイプを実際に使ってみるわけです。上記のプロトタイプは、半年間盗まれずに傘立てにあったそうです。

デザイン思考の注意するべき点

「デザイン思考」は、冒頭でも触れましたが、どんなものにも有効的ではございません。それを踏まえ、注意すべき点をまとめました。

新規(ゼロベース)は向かない

すべてのものに通用するかと言うとそうではないです。課題解決に対する改善、イノベーションに向いています。その反面、何もないものを生み出すテーマについては少し弱い点があります。(最近注目されている『アート思考』の方が良いかもしれません)ユーザーの共感をベースにアイデアを発想するというプロセス(5つのステップ)で進めますが、何もないものに対して、そもそも「共感」が難しく、このプロセスにそぐわなくなるためです。

ファシリテーターの手腕が求められる

進行役(ファシリテーター)は誰もができるわけではなく、知見を持った人がやるべきです。グループ討議の場合、意見が出ず滞ったり、”声の大きい人”に意見が引っ張られてしまうケースもあります。そのようにならないように注意や助言をして調整を図ります。

まとめ

デザイン思考を言語化すると、「課題を発見し、”人間中心”の観点で解決させて、イノベーションにつなげること」と言えます。表面化した企業の課題を深堀せずに解決しようとしてもなかなか解決できません。この考え方をビジネスに取り入れることで、重大な課題の発見やその問題を解決する思考が備わり、イノベーションの起因となるが期待されていることが想像できます。まだ導入していない企業の方々、一度検討してみてはいかがでしょうか。

デザイン思考についてもっと詳しく知りたい、ワークショップを検討したい、研修やセミナーを依頼したい等のご要望がありましたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。
実際にワークショップを行った内容を知りたい方は実践編をご覧ください。

参考:デザイン思考のおすすめ『本』

また、参考までに弊社がおすすめの本・書籍をご紹介致します。ご興味がある方はぜひともご一読ください。

監修:関東学院大学人間共生学部 佐々牧雄教授

(digmar編集部)